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第334回 精神疾患者の刑事責任


ニュース 法律 作成日:2020年5月25日_記事番号:T00090128

知っておこう台湾法

第334回 精神疾患者の刑事責任

 先日、嘉義地方法院(地方裁判所)が下した刑事事件の無罪判決が、台湾社会で大きな論議を呼んでいます。本件の概要は以下の通りです。

 2019年7月3日、Aという男が切符を買わずに電車に乗ったため、車掌長と警察官の李承翰さんは、Aに対し切符を購入するよう要求しました。Aはこれに不満を抱いて、ナイフで李さんの腹部を刺し、李さんは間もなく死亡しました。

 嘉義地方検察署はAを殺人罪で起訴しましたが、嘉義地方裁判所は20年4月に無罪判決を下しました。嘉義地方裁判所が無罪と判断した主な理由は次の通りです。

違法性を認識できず

1.刑法第19条では、「(第1項)行為時に精神障害またはその他の知的障害により、その行為の違法性を認識することができず、またはその認識に基づき行為をする能力が欠如している場合、これを罰しない。(第2項)行為時に前項の原因により、行為の違法性を認識する能力、またはその認識に基づき行為をする能力が著しく低い場合、その刑を軽減することができる」と規定されている。

2.Aは医師による精神鑑定で、重大な被害妄想症状などの精神疾患があることが判明した。本件発生時には発症しており、被害者(警察)から加害を受けていると誤認していた。よって、Aの犯罪行為はその精神疾患の影響によるもので、上記刑法第19条第1項の「その行為の違法性を認識することができず、またはその認識に基づき行為をする能力が欠如している場合」に達している。

世論は反発

 しかし、台湾の世論は無罪判決に反発しています。主な理由は次の通りです。

1.Aは精神疾患の治療を開始してから数年後に自ら治療を放棄し、薬も飲んでいなかった。Aの精神疾患の悪化は、A自らが大半の責任を負わなければならないもので、精神疾患を刑事責任免除の理由とすべきではない。

2.現行法では精神疾患により無罪判決となった被告に対し、病院で強制治療が可能な期間は5年間だけで、5年を経過すると全く拘束力はない。このような精神疾患は、いつ再発するか分からない。

 本件は大きな論議を巻き起こしたため、法務部(法務省に相当)が現在、刑法第19条の改正と強制治療可能期間の延長について検討を進めています。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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