リサーチ 経営 マーケティング 作成日:2011年2月14日
Y'sの業界レポート記事番号:T00028196
日経エレクトロニクスの2011年1月10日号に「どこまで広がるのか,社員100万人の『鴻海』圏」を寄稿した(日本経済新聞のWebサイトも徐々に掲載)。その末尾では,電子機器メーカーにおける強力なEMS/ODM企業との付き合い方のコツを記した。しかし,紙幅の限界により部品メーカーや製造装置メーカーに関する内容を盛り込みきれなかった。ここに要諦を紹介したい。
と書いておきながらひっくり返すようで申し訳ないが,コツうんぬんの前にもっと大切なことがある。部品/装置メーカーの経営トップがEMS/ODM企業を組み立て屋と軽視していては,何も始まらないことである。よほどの運に恵まれない限り,まともな売り上げを立てられない。なぜならHon Haiグループの納期や価格に対する要求は,「ウチで担当になった者が順次・順当に体を壊すくらい厳しい」(日系部品商社の台湾支店長)からだ。経営トップによる末端の従業員に対する支援が欠かせない。
このことは,Hon Haiグループに向けて極めて大規模に製造装置を納入した企業の実例で明らかだ。そのワンマン会長はHon Haiグループの工場を視察し,その規模と力量に驚いて深セン拠点の開設を即断。視察から4日後には,賃借するオフィス・ビルまで決定し,営業と技術サポートに当たる人材を最初から多数配置した。こういうスピード感とリソース投入なしには,Hon Haiグループ向けのビジネスは成功しない。
日本の部品/装置メーカーにおいてありがちなネックは,工場が日本国内にあることだ。24時間稼働が当然のHon Haiグループ中国工場と違って,日本の工場は夜間土日に休んでしまう。これが彼我のスピード感の差を大きくする。カスタマイズが少ない製造装置だと「発注書から2週間で納入せよと言われるが,いつもの造り方では間に合うわけがない」(日系製造装置メーカーの台湾支店長)。そこで,同支店長は「発注書が出る遙か前から,リスクを取って日本の工場に見込み生産させている」。
経営トップはこうした実態を理解し,物心両面から支えた方が良い。そのためには,「頭以上に体でHon Haiグループに代表される台湾系EMS/ODM企業を取り巻く環境と文化を理解しなければならない」(カメラ系EMS/ODM企業の活用に長けた技術者)。その第一歩は,台湾系EMS/ODM企業が集中立地する「深セン市や江蘇省昆山市あたりを,お付きの者なしで仕事で飛び回ること」(前出の技術者)だろう。
一方で,部品/装置メーカーで営業に従事する人々が,知るべきコツは三つある。
(1)日本企業と違って資材部が設計部の意見を押さえ付け,決まっていた案件をひっくり返すことが良くあること。受託という業態から,設計部が出す面白いアイデアよりも,資材部の着実なコストダウン策の方がHon Haiグループでは通りやすい(図1)。しかも,その資材部は出世コースの一つと見なされており,文系よりむしろ理工系大学出身者が配置される。
(2)徹底的に競争を求められること。既存サプライヤーに対する査定の厳しさでHon Haiグループは定評がある。「四半期ごとに挨拶のように5%の価格ダウンを要求してくる。しかも,同様な部品のサプライヤーを採点して順位まで伝えてくるので,それがいまいちだと弱みを握られた状態になってしまう。とはいえ毎度5%も下げてはこっちがくたばる。相手と気心が通じやすい,台湾人スタッフに粘り強く落としどころを探ってもらうしかない」(日系部品商社の台湾支店長)。
Hon Haiグループが,星の数ほどのグループ企業や親密企業を抱えていることも悪影響を与えている。それらが,部品/装置メーカーが売り込みたい製品を手掛けている場合があるからだ。Hon Haiグループは身内の企業を価格や納期面で一切優遇しないという調達方針を堅持しているものの,当然ながら厳しい競争が待ち構えている。
(3)複雑怪奇な組織の中からキー・パーソンを見つけ出すこと。Hon Haiグループは,会社をどんどん新設している。中国の地方政府から税制などの優遇措置を受け続けるためだ。こうした措置は一般に,進出から5年といった期限がある。
しかも同グループは同じ会社で競合商品を手掛けないよう事業を配分している。例えば携帯電話機を手掛ける香港FIH(Foxconn Internatinal Holding)社では,Android機を手掛ける一方,Hon Hai本体が「iPhone」の製造を請け負っている。こうした複雑さを乗り越えるには,「Hon Haiグループの会う社員会う社員に,組織図を書いてもらうことが有効」(日系部品メーカーの台湾支店長)である。それによって各責任や影響力の範囲が明確になる。
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