記事番号:T00031261
筆者は台湾日本人会会報2011年7月号に、鴻海精密工業の創業者で董事長の郭台銘氏に9月ごろ単独インタビューすると書いた。しかし郭氏らしいことに、急遽前倒しとなり2011年6月30日に面談した。一度決めたことは、とっとと終わらせないと気が済まない性分らしい。
インタビューの内容は、7月1日の日本経済新聞朝刊や日経エレクトロニクスの2011年8月8日号が詳しいので(筆者は日経エレクトロニクスの認定寄稿者というべき特約記者も務めている)、ここでは2012年から鴻海が開始する5カ年計画について触れたい。
5カ年計画における最大のポイントは、2012年から毎年連結売上高を15%増やすことである。2011年は準備の年として売上高目標を定めないものの、仮にその成長率が10%だったとして2012年には10兆円超え、2016年には18兆円超えを目指している。
小売業への進出がカギ
荒唐無稽にも思える計画だが、筆者には実現可能性は決して低くないように見える。その論拠は、2010年からドイツの流通業者と共同で中国における家電量販店ビジネスに参入したことである。鴻海が民生機器の設計や製造だけでなく、最終製品の販売まで引き受ければ、「顧客の家電メーカーは在庫の大幅な削減が可能になる」と郭氏は説明する。
鴻海が受ける利点は、これ以上に大きい。売上高の発生源が、工場出荷価格から小売価格にシフトするからだ。民生機器の小売価格はざっくり言えば、工場出荷価格の1.5倍前後である。2010年における鴻海の連結売上高は、8兆3297億円。中国を皮切りに世界各地で小売業を始められたとしたら、そう考えると2016年に18兆円という目標が近く思えこないだろうか。
ライバルは不動産業者
こうした想定が成り立つのかどうかという試金石は、中国における小売店の展開が上手くいくかどうかである。2011年に関しては「従業員の育成に時間をかけたい」(郭氏)として予定出店数を引き下げた。ただし、中国最大の家電流通業者になるという目標は依然として一切変えていない。
強気の背景には、中国の家電量販店のサービス品質が台湾人あるいは日本人から見て非常に低いことがある。中国の家電量販店業者は、販売スキルや仕入れ能力を高めて成長してきたわけではない。彼らのビジネスモデルは「パルコ」「ルミネ」と同様、テナント(出店企業)に対するピンハネである。