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第2回 売買契約のリスク


ニュース 法律 作成日:2007年6月20日_記事番号:T00001102

産業時事の法律講座

第2回 売買契約のリスク

 
 今回は日本企業にとって、台湾企業との売買契約において知っておくべきリスクについて解説します。

 台湾の民法はドイツの法制を継承しており、売買にかかわる「物権行為」と「債権行為」も、ドイツ法が基になっています。

 一般の売買においては、当事者双方が契約を締結すれば、買主は代金の支払い義務を、売主は物品の受け渡し義務を負います。これらの義務は法律上「債務」と呼ばれます。また、債務と反対の意味を持つものを「債権」といいます。「債権」は相手方に対し支払いや受け渡しを要求できる権利で、相手側が履行しなければ、裁判所に強制履行を請求できます。これを「債権行為」といいます。

 ここで強調しなければならないのは、当事者双方が売買契約を締結しただけでは、買主が物品を手に入れたわけでも、売主が代金を受け取れたわけでもない、ということです。 台湾の法制度では、 買主が物品の所有権を得るためには、売主が物品を買主に給付しなければならず、また、売主が代金を手に入れるためには、買主が代金を売主の銀行口座に振り込むなどの給付が必要です。これらの物品また代金の支配権が転移する行為を「物権行為」といいます。物権行為は物理上の管理権を転移するだけではなく、法律上「受け取り側に所有権が譲渡される」ことを意味します。

大きなトラブルに発展も

 売買契約とともに物品の所有権が移転する制度は海外では多くみられますが、台湾は異なっています。台湾では買主が契約を締結しただけでは物品の所有権を得られないため、不動産や骨董品の売買で大きな問題に発展するケースもあります。売主が物品を買主に給付する以前に別の他人に給付してしまえば、その他人に所有権が移ってしまい、買主は物品を受け取ることができないためです。外国人はこのような台湾の制度の特殊性を理解していないことが多く、ビジネス上のトラブルに巻き込まれることが少なくありません。

 こうした問題が起きるのは、売買契約だけに限りません。例えば、台湾では「婚約」も契約の一種と見なされています。しかし婚約をしただけでは「配偶者」にはなれず、夫婦になるには結婚の儀式を経る必要があります。前述の売買契約と異なるのは、婚姻契約は強制履行を求めることができず、もし相手側が結婚の意思を撤回しても、裁判所に結婚の強制の請求はできません。

 売買契約成立後、売主が物品給付の義務を履行しなかった場合、買主は裁判所に強制的な受け渡し実施を請求できます。契約解除や損害賠償の請求なども可能で、通常ビジネスの現場で選択されるのはこれらの手段です。なぜならば、通常の商業行為での売買契約には、物品の納品だけではなくアフターサービスなどの販売後行為も含まれているため、売主が債権不履行を起こした場合、裁判所の判断によって強制的に物品を給付させたとしても、その後のサービスの履行期待することは難しいからです。

 日本企業が台湾企業と売買契約を締結する際には、今回ご紹介した「物権行為」と「債権行為」の考え方の違いをよく認識し、ビジネスリスクの回避のために特別な注意を払う必要があります。
 
徐宏昇
 ’82年台湾大学法学部卒業。ビジネス関連法、特にハイテク産業の法務問題に精通し、多くの日系企業のクライアントを持つ。

徐宏昇弁護士事務所
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