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第1回 台湾は「空洞化」しているのか?   


ニュース その他分野 作成日:2007年7月11日_記事番号:T00001433

台湾経済 潮流を読む

第1回 台湾は「空洞化」しているのか?   

 
 台湾経済の先行きを取り巻く古くて新しい問題として、いわゆる「空洞化」の問題がある。在台湾日系企業の方々の中でも、日本本社から「台湾は空洞化しているそうだから、台湾で新規事業をするのは控えた方が良いのではないか」と指摘を受けている方もいらっしゃるようだ。

 加えて、台湾の場合、「空洞化」問題は経済だけなく、政治問題とも密接なかかわりを持つ形で人々の関心を集めている。それは、台湾企業の海外直接投資の大半が、統一・独立をめぐり対立を抱えている中国に向かっているからに他ならない。実際、1952年以来の台湾の海外直接投資累計額に占める対中投資のシェアは、2006年時点で52.9%に達している。

 この状況下、急速な対中経済交流規制の緩和が「空洞化」につながり、かつ、対中経済依存度が高まることで、経済を通じて政治的にも中国に取り込まれる恐れがあるとの声が絶えず聞かれる。その一方で、対中経済交流規制が残っているがゆえに、中国を活用した経済発展が行いにくく、そのことが台湾の「空洞化」のリスクを高めており、中国との関係改善が急務であるとの主張もみられる。

製造業GDPは順調に成長

 ただ、台湾は本当に「空洞化」しているのだろうか?「空洞化」とは、「海外直接投資を通じて国内製造業が持続的に弱体化する」状態を指す。もし台湾が「空洞化」しているのであれば、製造業の実質GDP成長率は、少なくとも過去と比べて低水準にとどまっていることになるだろう。しかし、台湾製造業の実質GDP成長率は、2000年以降、「中台WTO同時加盟」後の対中投資急増の中にあっても、過去と比べて遜色(そんしょく)ない水準、むしろ高い水準にある(図表)。
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 製造業の従業員数の伸び率についても同様だ。これらのデータが示すように、台湾の製造業は「持続的に弱体化している」とは言い難い。 

 また、台湾の場合、対外直接投資を行っている企業の方が、対外直接投資を行っていない企業と比べて、一般的に売上高、台湾内での固定資産や従業員数の伸びが高い。例えば、93~02年の間、対外直接投資を行っている企業の売上高の伸びが103.9%だったのに対して、行っていない企業の伸びは39.5%だった(中華経済研究院調査)。このように、「対外直接投資悪人説」にはあまり説得力がない。では、それにもかかわらず、なぜ台湾では「空洞化」が起こっていると言われてきたのだろうか。

 そのような「生活実感」が生まれた理由を考える必要がある。次回は、生活実感に大きな影響を与える家計の所得・消費の大きな変化についてみてみたい。


伊藤信悟(みずほ総研アジア調査部 上席主任研究員)
  93年東京大学卒業後、富士総合研究所入社。01年12月~03年11月、(財)台湾経済研究院副研究員を兼務し台北駐在。02年10月、みずほフィナンシャルグループ統合に伴い、現職。現在に至る。近著に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs』東洋経済新報社、06年)など


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