日本同様、台湾の産業界もインドに対する関心が高まっている。2003年10月に米国のゴールドマンサックスがブラジル、ロシア、中国と並び、インドを高い潜在的な成長性を備えた新興国としてインドを挙げたが、それが「中国+α」という文脈でインドに対する関心を高める上で大きな起爆剤となった。台湾政府も、対中経済依存度の高まりがもたらす経済的・政治的リスクを回避させることを目的に、インド市場の開拓、対インド投資を精力的に支援しようとしている。例えば、台湾政府は04年に「対インド経済貿易活動の強化プログラム」を発表し、06年には「台湾インド協会」を設立している。また、台湾企業のインドミッションも数多く組成されるようになっているし、欧米企業のインド進出を受けて、鴻海など台湾の大手IT企業がインドに投資するようになってきてもいる。
しかし、台湾企業の「インドへの道」はいまなお遠いというのが現状である。06年の台湾の対インド輸出額は14億7,000万米ドルで、台湾の輸出先としては第20位である。台湾の輸出総額に占める対インド輸出額のシェアも0.7%にとどまっており、世界の輸入総額に占めるインドのシェアが1.5%であることから判断しても、台湾はインドとの経済的結びつきが弱い。投資の規模から見ても同様である。インド商工省の統計によると、台湾企業の対インド投資額は91年10月~07年5月までの累計で1,890万米ドル、インドの直接投資受け入れ総額に占めるシェアはわずか0.04%である(図表)。
単位=100万米ドル、%
06年9月に経済部投資審議委員会が対外直接投資を行っている台湾企業を対象に実施したアンケート調査によると、今後3年以内に投資を行う可能性が高い主要国・地域としてインドを挙げた企業は全体の1.6%にとどまっている。現在、インドを主要な投資先として挙げている企業がゼロであることからすれば、台湾企業のインド進出は前向きなものになりつつあるが、その歩みは緩やかなものになりそうだ。
橋渡し役が不足
台湾企業がインド進出に慎重さを崩していない理由は、交通等のインフラ整備の遅れ、税制面の問題、高関税、通関効率の低さ、行政効率の低さ、法制度の未整備などである(交流協会台北事務所『アセアン・インドにおける日台協力の台湾企業のニーズ調査報告書』07年3月)。これらの問題を緩和・解決する上では、高い異文化経営能力が必要とされるが、台湾・インド間の文化的差異は大きい。ASEAN4であれば華人、ベトナムであれば「越南新娘」や彼女らとともにベトナムに移住した台湾人が、異文化経営能力面での障壁を引き下げる役割を果たしているが、インドの華人人口は1万2,000人に満たない(カルカッタに約6,000人)。62年に中印戦争が起こったことで華人の事業に多くの制限が課され、第三国に華人が移住したことがその背景にある。このように投資環境の整備面での課題が多く、かつ、文化的差異も大きいことから、基本的に台湾企業の対インド投資は、依然として人材面を中心に経営資源が豊富な大企業を中心としたものになりそうだ。
9月上旬、ある日台の国際会議で台湾のある高官とホテルでバイキング形式の昼食を共にした。私がキーマカレーを口にしようとした時、先にそれを試していた彼は「魯肉飯の味と似ているぞ」と告げた。私には正直よく分からなかったが、彼は何らかの共通点を感じたようだ。上述の理由からインド市場における台湾企業のプレゼンスが急速に拡大するとは考えにくいが、インド市場の調査が継続的に行われていく中で、台湾企業が何らかの親和性や日本企業と異なる商機を見出していく可能性もないとは言えないのかもしれない。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟