ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム グループ概要 採用情報 お問い合わせ 日本人にPR

コンサルティング リサーチ セミナー 経済ニュース 労務顧問 IT 飲食店情報

第11回 中国経済は過熱しているのか?


ニュース その他分野 作成日:2007年11月28日_記事番号:T00003993

台湾経済 潮流を読む

第11回 中国経済は過熱しているのか?

 
 前回、中国の投資環境の変化が台湾企業の対ベトナム投資の変質を引き起こす一因になっていることを説明した。この例を示すまでもなく、台湾経済の潮流を読む上で、中国経済の先行きをどのように見るかが非常に重要であることは改めて指摘するまでもない。

 では、中国経済の先行きをどのように見ればよいのだろうか。開催まで残り1年を切った北京五輪、2010年の上海万博といったイベントの終了後に、中国経済が大きな調整を迎えるのではないかという懸念がしばしば呈されているが、その背景には、中国経済が過熱しているという認識があるものと推察される。

 一国の経済がその実力よりも上振れているのか否かを判断するときに使われるのが、潜在成長率と実際の成長率との差である。潜在成長率の定義にはさまざまなものがあるが、大別すると二つに分かれる。一つは、インフレを加速させることなく、実現可能な成長率という定義である。もう一つは、最大限投入可能な資本・労働者数に過去の平均的な資本・労働の稼働率を用いて算出した平均成長率を潜在成長率と見なすものである。ただし、中国の場合には、これらの計算に耐え得るような統計が整備されていない。そこで、79年~06年の実質GDP(国内総生産)成長率のトレンドを算出したのが、図表である。
T000039931


 その結果を見ると、近年はトレンドよりも高い成長が続いていることが分かる。このトレンド抽出方法には、観測期間の両端の実績値に引きずられるという欠点があることを勘案すると、近年の中国の潜在成長率は9.5%~10.0%程度だと言える。しかし、07年に入ってからは11%を超える成長が続いている。80年代半ば、92年~95年までの改革開放の加速期ほど極端ではないが、中国の成長率は上振れていると言わざるを得ない。

マクロ経済の運営バランス犠牲に

 先般開催された党大会、北京五輪、上海万博といったイベントのせいで成長が上振れているという面が全くないとは言えない。しかしそれよりも根本的な問題があるように思われる。胡錦濤政権は「和諧社会」、すなわちバランスの取れた社会の建設を目指して、地域間格差の縮小などに取り組んでいるが、その結果としてマクロ経済の運営上の面でバランスを犠牲にしている嫌いがあるのだ。

 アジア通貨危機後、朱鎔基首相が経済の構造調整を行ったが、その際に中西部では「沿海部では尻尾を切るだけでいいが、中西部は首を切り落とさなければならない」という声が聞かれたという。こうした声の配慮もあってか、金利や為替の調整スピードは緩慢なものに抑えられており、全面的な引き締めを行う代わりに、過剰投資のセクターを狙い撃ちにする形で行政的手段による調整が行われているのが現状である。その結果として生じているのが、巨額の貿易黒字と資本流入を背景とした外貨準備の蓄積だ。その規模は、07年9月末時点で1兆4,300億米ドルにまで拡大している。前年同期比45%もの高い伸びだ。

 得られた大量の外貨は人民元に転換され、市中に出回り、バブルを引き起こす可能性がある。そのため、中国人民銀行が中央銀行借入債券という債券を銀行に対して販売し、人民元を吸収、また人民元・米ドル売りをすることで人民元の急速な増価を抑えているのである。また、法定預金準備率を引き上げて、銀行から資金を吸収している。しかし、それでもマネーサプライ(M2)は、政府の目標値である16%を上回る伸びを続けているのが現状である。

 ただし、食品・エネルギーを除いたコアCPI(消費者物価上昇率)は07年9月時点で1.0%と低い。だからバブルは起こっていないとの見方もある。しかし、この現象自体、過剰流動性の結果であるとの見方ができる。また、消費者物価には現れていないが、別の部分にバブルの萌芽が見られるというのが小生の見方である。次回はこの点を具体的に説明したい。

みずほ総合研究所 アジア調査部 伊藤信悟

台湾経済 潮流を読む