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作成日:2007年12月26日_記事番号:T00004609
台湾経済 潮流を読む
第13回 中国経済の先行きと台湾経済
過去2回にわたって、中国経済のバブルの予兆、すなわち、積極的な設備投資による供給過剰の恐れ、株価の高騰、住宅ストックの積み上がりの恐れについて卑見を述べた。また、胡錦涛政権は「和諧社会」、すなわちバランスの取れた社会の建設を目指して、地域間格差の縮小などに取り組んでいるが、その結果としてマクロ経済の運営上の面でバランスを犠牲にしている嫌いがあること、また、それが今日の中国経済の問題の背景にあることを指摘してきた。
中国:好調の陰で蓄積する不安材料
中国政府は、競争力の弱い地域・産業を保護するために、緩やかな金利引き上げ、漸進的な人民元の切り上げを基調とした金融・為替政策を採ってきた。それでも矛盾が表出した場合には、コントロールの対象を特定化し、行政的手段を用いて投資加熱の問題や過剰流動性の問題を処理しようとしてきた。しかし、こうした手段が十分に功を奏していない恐れがあるのだ。余った金は絶えずはけ口を求める。対症療法的な対応には限界がある。また、競争力の弱い地域・産業を保護・強化する手段として、金融・為替政策に過度の役割を担わせるのではなく、産業政策、財政政策により多くの役割を担わせることが必要なのではないかと考えられる。以上から判断して、より速いスピードでの人民元の切り上げや利上げが求められているように思われるし、実際にそうした政策運営が行われる可能性も否定はできない。
弊社は、2008年の中国経済は07年と比べて減速はするものの、10%台半ばという潜在成長率を上回る高成長を維持すると予測している。ただし、逆に言えば、中国経済が08年も「和諧社会」建設のコストとして、マクロ経済上の調和をどの程度犠牲にし続けられるかが引き続き試される展開になることを意味する。好調の中で不安材料を蓄積させているというのが中国経済の現状、当面の姿となりそうである。
台湾:リスク分散のための資源蓄積を
今回の連載では、対中投資を通じて台湾企業、台湾経済が台湾海峡を跨ぐ有機的な分業ネットワーク、中国内の販売・調達ネットワーク、人脈という、新たな競争力の源泉を身につけてきたことを説明してきた。そしてそれが中国の経済大国化と相まって、台湾製造業の世界市場におけるプレゼンスの拡大や中国市場を狙う外国企業とのアライアンス拡大につながっていることを示した。しかし、中国経済に長期にわたる異変が起こった場合には、台湾が獲得した新たな経営資源の価値が大きく損なわれることになるし、中国経済に深く関与しているだけに、台湾経済、台湾企業の調整も大きなものにならざるを得ないだろう。
中国一極集中リスクの回避を目的として、05年頃から台湾企業は、ベトナムやインド、東欧といった諸国への進出を検討、実施しつつある。ただし、その場合には、言語・文化の類似性が高い中国とは異なり、現地で直面するハンディキャップは自ずと大きくならざるを得ない。台湾企業は多国籍企業としてさらなる飛躍、さらなる脱皮を果たすことが求められているといえるだろう。そのためには、優れた人材の育成、技術力の向上など、ハンディキャップを克服可能な経営資源の蓄積にいっそう邁進する必要があるし、政府もそれを支える環境をより充実させていく必要がある。
台湾にとって08年は選挙の年である。1月12日には立法委員選挙、3月22日には総統選挙が実施される。中国との政治的関係、「三通」規制の是非が引き続き大きな争点として扱われることになるだろう。それが台湾にとって最大の政治的イシューとなりやすいことは十分に理解できる。ただし、中国との統一・独立に関わる「政治共同体の範囲」の問題に議論が集中し、台湾という「政治共同体の内実」の改善に関わる議論がおろそかになってしまっては残念である。「三通」問題もさることながら、台湾の競争力強化や社会的発展に関わる建設的な政策論争が展開されることを期待してやまない。
みずほ総合研究所 アジア調査部 伊藤信悟