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第17回 「天網計画」と日台アライアンスの行方


ニュース その他分野 作成日:2008年9月9日_記事番号:T00010091

台湾経済 潮流を読む

第17回 「天網計画」と日台アライアンスの行方

 
 2008年8月22日に発表された台湾の08年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年比4.3%の伸びとなり、過去3四半期続いた6%成長から大幅な落ち込みをみせた。台湾政府が景気判断の材料としている景気判断信号も「冷え込み注意」を占める青信号が灯った。

 こうした中、馬英九政権は、発足100日目となる8月27日に「因応景気小組」で景気対策の拡充を打ち出した。それが一定程度景気の下支え役となることが期待されるものの、輸出依存度の高い台湾経済は、世界経済減速の影響を強く受けざるをえない。08年の成長率は行政院主計処予測の4.3%を下回り、4%以下になるのではないかとの予測が各種機関から出始めている状況だ。この状況にいかに対応するかは無論非常に重要であるが、中長期的な成長戦略の着実な推進がおろそかになってはならない。その意味で注目されるのが、経済部が現在立案中の「天網計画」だ。

「天網計画」の三本柱

 「天網計画」は、次の3つの柱から成る(詳細は本誌8月15日号、行政院プレスリリース8月14日)。

 一つ目は大規模民間投資の推進で、4年間で4兆台湾元(約13兆7,000億円)の大規模民間投資を促すとされている。

 二つ目は外国企業の誘致拡大である。10月6~8日に台北国際会議中心で行なわれる「全球招商大会(大型企業誘致会議)」や台湾の産業の優位性、愛台12建設計画、対中経済交流規制の緩和をてこに、多くの外国企業を台湾に呼び込み、長期的な発展の原動力とするというのがその中身である。

 三つ目は、「中台架橋プロジェクト(両岸搭橋専案)」と呼ばれるものである。漢方薬、太陽光電、カーエレクトロニクス、航空、紡織・繊維、通信、自転車など12の産業で中台間の研究開発(R&D)、生産、販売協力のためのプラットフォームをつくり、新たな商機と外国企業とのアライアンスを創出することが目指されている。

 馬英九政権の産業政策の前政権との大きな違いは、この「中台架橋プロジェクト」と外国企業の誘致拡大を結びつけ、台湾経済の活性化を図ろうとする点にある。

 台湾企業と中国企業のアライアンスの形態としては、共同研究開発などもあるだろう。漢方薬や航空などの領域では、中国側の持つ技術力は決して無視できない。ただし、台湾企業の中国における研究開発は基本的には安価な技術者の活用という性格が強い上、現地の合弁企業や研究機関とのアライアンスは、新聞報道などから想像されるよりも少ない(図表)。
 
T000100911

  
台湾の優位性明確化が鍵

 中台間の技術格差が早晩縮小する可能性は低いことから推察するに、「中台架橋プロジェクト」下における中台アライアンスの形は、基本的には「台湾企業が持つ技術と中国企業が持つ販路の組み合わせ」という形態が中心となるとみられる。その場合には、中国での販路拡大に成功した台湾企業に対する中間財や資本財の販売を通じて、日本企業のビジネスにもプラスの影響を与えることが予想される。あるいは、台湾企業を通じて、その販路に自社製品を乗せたりするというチャンスが生まれる可能性もないとは言えない。

 ただし、馬英九政権が目指すように、中台間のビジネスアライアンスを外国企業の「対台湾投資」につなげるためには、中国と台湾は一体何が違うのか、中国とは異なる台湾の優位性が一体何なのかを明確に外国企業に伝えることが必要不可欠である。

 「台湾企業と中国企業のアライアンスが進めば、中国に単独で投資をすることに不安感をもつ欧米企業がいったん台湾を経てから、中国に投資をするようになる」との想定もなされているようだが(『聯合晩報』08年7月29日)、台湾を経由せずに、中国で台湾企業と外国企業が直接アライアンスを組むというケースも増えているように見受けられる。

 「台湾パッシング」を避け、台湾に技術や投資を呼び込むためには、対中関係の改善と対中経済交流規制の緩和のアピールはもとより、「中国との違い」も同時に力説する必要がある。その際、知的財産権保護制度の差異、現在賦税改革委員会で検討されている新たなハイテク優遇措置や各種インフラの整備状況の違いもさることながら、コストを上回る価値をもつ人材や産業集積面での台湾の優位性をいかに納得的に説明できるかが鍵を握ると思われる。ただ、その優位性を数字などで分かりやすく示すのはそれほど容易ではない。馬英九政権が努力すべき点はここにあるのではないだろうか。


みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟
 

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