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第19回 グローバルリセッションと台湾経済


ニュース その他分野 作成日:2008年11月11日_記事番号:T00011480

台湾経済 潮流を読む

第19回 グローバルリセッションと台湾経済

 
 前回10月14日のコラムで、台湾経済の底力が試されるのはグローバルリセッションが本格化してからだろうという見通しを述べた。豊富な外貨準備や対外純債権を持っているため、台湾は資金流出に対して比較的強い耐性を持っているが、輸出依存度が高く、海外需要の減少に弱い経済構造を持っているからである。輸出環境が悪化すれば、それが個人消費や総固定資本形成をさらに弱含ませることにもなりやすい。今回は、このことを改めて確認してみたい。
 
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 図表は、台湾のGDP(付加価値生産額)が個人消費、総固定資本形成(投資)、輸出などの需要項目のうち、どれによってどの程度生み出されたのか、その割合を計算したものである。この計算に際しては、次のような需要から付加価値生産までの連鎖を念頭に置いている。輸出や個人消費、総固定資本形成が増えた場合、その需要を満たすために必要な国内の中間財や資本財やサービスなどの生産が誘発され、それがさらに新たな国内財・サービスに対する需要・生産を生み出していく。また、その過程で一部は海外からの財・サービスの輸入という形で海外に所得が流出する。単純にGDPに占める輸出の割合を計算するのではなく、こうした生産活動の連鎖を考慮し、元をたどるとGDPがどの需要項目にどの程度依存しているのかを計算したもの、それがこの図表である。

GDPの34.9%が輸出に由来


 これをみると、台湾のGDPが輸出に強く依存していることが改めてよく分かる。GDPのうち34.9%は元をたどれば輸出によって誘発されたものである。個人消費の44.3%と比べれば依存度は小さいものの、同様の方法で計算した中国の輸出依存度(2005年時点で28.0%)と比べてもその値は大きい※1。業種別に見ると、とりわけ輸出への依存度が高いのが、台湾の屋台骨を支えている電子部品やIT製品、化学繊維である。これらの業種のGDPの9割以上は海外の需要に由来している。

※1 中国国家統計局『中国統計年鑑』08年版により算出

 GDPはさらに雇用者報酬(賃金)、営業余剰(企業の利益)などに分解できるが、雇用者報酬の34.9%、営業余剰の31.6%が輸出により生み出されたものであり、その割合は決して小さくない。それゆえに、台湾の場合、輸出の変調は雇用者報酬や営業余剰の低迷を通じて個人消費や総固定資本形成の伸びにも影響を与えやすい。こうした台湾の経済構造を考えると、グローバルリセッションがどの程度の拡がりと深さを持つのかは、台湾経済にとって死活問題であるといっても過言ではない。

 08年9月の台湾の輸出額(実質台湾元建て)の伸び率が前年同期比▲4.5%とマイナスを記録したことが示すように、台湾の輸出は急速に冷え込み始めている。それに伴い、意図せざる在庫の増加が見られるようになっており、半導体や液晶パネル産業を中心に08年7~9月期の法人説明会で設備投資計画の大幅削減を打ち出す企業も出てきている。人員削減に関する報道も増加している。

馬政権の取り組み、短期的成果は厳しく

 こうした状況下、馬英九政権は個人消費・投資を喚起するための政策を立て続けに打ち出している。それが一定の経済の下支え役を果たすことを期待しているが、輸出に強く依存している台湾の製造業が直接的に大きな恩恵を受けることは難しい。輸出促進策にも限界がある。現在、馬英九政権は中国をはじめとする途上国市場の開拓に力を注いでいる。こうした試みが今後の布石という意味で非常に重要であることは論を待たない。しかしながら、短期的に大きな成果を期待するのは酷である。

 こうした中、台湾の輸出産業はコスト削減、新製品の開発、新規市場開拓など地道な策を採りつつ、世界経済の回復を待つということにならざるを得ないであろう。台湾の製造業が苦境を乗り切れるかどうかは日本企業にとっても決して他人事ではない。台湾企業をOEM(相手先ブランドによる生産)/ODM(相手先ブランドで設計から製造までを担当)先として活用したり、顧客としている日本企業は非常に多いからである。その意味において、台湾企業、日本企業それぞれがグローバルリセッションを乗り切る方策を考えることはもとより、日台間のビジネスアライアンスをどのように再構築し、難局を乗り切るかの再考が求められているといえるのではないだろうか。
 
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟

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