ニュース その他分野 作成日:2009年1月13日_記事番号:T00012789
台湾経済 潮流を読む
1978年12月18~22日に開催された中国共産党第11期中央委員会第3次全体会議で改革開放路線が採択されて、30年が経過した。
この政治経済路線の大転換と軌を一にし、79年元日には中国全国人民代表大会常務委員会が「台湾同胞に告げる書」を発表し、中国の対台湾政策が「武力解放路線」からいわゆる「平和統一路線」に転換され、同じく30年の年月が過ぎた。それを記念した座談会が開催され、その場で胡錦濤国家主席が軍事信頼醸成などを台湾に呼び掛けたことは、広く台湾内外で報じられたとおりである。
中国への「適応」、大きな課題に
79年当時、中国が対台湾政策の大きな転換を図った背景には、米中国交正常化を実現するためにも、台湾の安全保障に対する米国の懸念を取り除く必要があったこと、また、イデオロギー闘争や計画経済下で疲弊した経済を立て直す上で平和な環境をつくりだす必要があったことが挙げられる。同様の理由から、中国側が台湾との経済交流を必要としていた事情があった。
中国政府の対台湾政策に関する意思決定において、対米関係への配慮や成長重視路線との調和は依然重視されている。ただし、その後の中国の高成長による中台間の(規模でみた場合の)国力の開き、中台間の経済関係の緊密化は周知のとおりであり、隔世の感を禁じ得ない。「政治大国」のみならず「経済大国」と化す中国にあらがいつつも、どのように「適応」していくのかという問題は、台湾にとってよりいっそう大きな課題となっているように映る。
中台経済交流、世論は肯定
中国との経済交流拡大を台湾経済活性化の必要不可欠な課題と位置付ける馬英九政権の誕生は、少なくとも経済面については、中国の台頭に対して「適応」することが必要だとの認識が主流となっていることの証左といえそうだ。実際、08年には、海峡交流基金会と海峡両岸関係協会のトップ会談により、中国人観光客の受け入れ枠拡大、直航拡充などが実現されたが、各種世論調査もおおむね肯定的な評価を下している。
馬英九政権の対中経済交流拡大路線が今年も続くことは、ほぼ確実であろう。09年上半期には政権発足後第3回の上記トップ会談が開催されるもようである。そこでは、銀行をはじめとする金融機関の相互拠点設立、台湾企業の投資保障、経済紛争処理メカニズム、二重課税防止に関する協議などが議論されると報じられている(本紙08年11月5日)。また、直航のさらなる拡充や中国人観光客の受け入れ枠のさらなる拡大も議論されることになるだろう。少なからぬ在台湾日系企業にも一定の恩恵がもたらされることになりそうである。
台湾の国際生存空間、広がるか
それにも増して、09年の中台関係において注目されるのが、台湾の「国際生存空間」の拡大が進むのかどうかという点である。
馬英九政権は発足以来、中国に対して承認国の取り合いの停止(「外交休兵」)、台湾の国際組織への参加、他国とのFTA/EPA締結を強く要求してきたが、昨年中国はそれに呼応するかのように、台湾の「国際生存空間」の維持ないしは部分的拡大を黙認する形で「善意」を見せている。具体的には次のとおりである。
第1に、中華民国承認国の中には、公然と中国との国交樹立を希望する国も出てきているが、中国がそれを受け入れることはなく、中華民国承認国の数は維持されている。
第2に、08年11月にペルーのリマで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に「過去最高位」とされる元副総統の連戦・国民党名誉主席が出席した。
第3に、世界貿易機関(WTO)の政府調達協定への台湾の加盟が08年12月9日にWTO政府調達委員会にて可決された(「台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域」名義)。台湾当局関係者から、政府調達協定締結に際し、中国政府は総統府ではなく「台湾領導人弁公室」、行政院ではなく「台湾省政府」と記載すべきだ、などという理由で台湾の当該協定への加盟に反対してきたと聞いていたが、中国政府は馬英九政権発足後、この問題について柔軟な対応を示したといえるだろう。
自由貿易協定の締結が焦点に
09年もこうした対中関係改善を背景とした台湾の「国際生存空間」の拡大が進む可能性がある。今年5月には、世界保健機構(WHO)の最高意思決定機関である世界保健総会(WHA)において、台湾のオブザーバー参加が認められるかどうかが議論される予定であるが、「中華台北」名義で台湾がオブザーバーになることを容認するとの方針を中国政府が固めたとの報道がなされている(『産経新聞』09年1月1日)。そのほかにも、さまざまなルートからこうした情報が流れてきている。03年の新型肺炎SARS流行時の記憶、また、新型インフルエンザのパンデミックリスクを考慮すれば、実現が強く望まれることは言うまでもない。
また、台湾と非国交国とのFTA/EPA締結を中国政府が容認するかもしれないとの観測情報が流れている。すでにシンガポールなど一部の国は、陳水扁政権時代に台湾とのFTA/EPA締結について一定のフィージビリティースタディをしているが、締結に向けた具体的な歩みが始まるとの観測である。台湾非承認国の一角が台湾とのFTA/EPA締結に踏み切った場合には、その流れが他国にも広がっていくことも十分考えられる。その場合には、在台湾日系企業にも好悪を問わず影響が及ぶ可能性があろう。世界金融危機の影響で保護主義的な声が諸外国で高まる可能性もあるため、FTA/EPA締結問題は、対中関係や台湾の一存だけで決まる問題ではない。このように不確定要素はあるが、台湾のFTA/EPA締結をめぐる動きが09年の注目点になるかもしれない。
市民の見方は二極化
台湾の主流民意は現在の対中交流の開放スピードをちょうどよいと考えているが、その一方で、そのスピードが速過ぎると感じる台湾市民も急速に増えており、台湾社会における意見の乖離(かいり)が大きくなっているように見受けられる。
行政院大陸委員会が08年12月に行ったアンケート調査では、「ちょうどよい」という回答率が47.5%と最多だったが、「速過ぎる」との回答率が過去最高の37.2%に達している。
急速な景気悪化故に、中国とのさらなる経済交流を求める声がある一方で、就業環境の悪化と対中経済交流規制の緩和が結び付けられて議論されていく可能性もある。馬英九政権がこの問題にいかなる対応をみせるのか。その手腕が試されることになりそうだ。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟
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