前回100を超える「台商協会」が中国に設立されており、台湾企業の自発的組織である「台商協会」において、中国地方政府の台湾事務弁公室系統の人員がその重職に就いていることを説明した。この台湾事務弁公室系統の人員の存在が、台湾企業にとっては大きな意味を持っている。
台湾の統一・独立をめぐる対立が原因で、台湾当局は中国国内に政府の出先機関を設立することができない。こうした中、台湾企業は台湾の政府機関の力を借りずに各種トラブルの回避・解決、政府との折衝、情報収集などを図らなければならないというハンディキャップを負っている。それだけに、「大陸台商協会」の台湾事務弁公室関係者が提供するさまざまな便宜が大きな意味を持っているのである。「大陸台商協会」に台湾事務弁公室関係者が入っていること自体、台湾企業の中国における活動を監視・監督するという意味合いが含まれているかもしれないが、彼らの存在が台湾企業にメリットをもたらしていることもまた確かなのである。
高いトラブル解決満足度
それを端的に示すアンケート調査がある。台湾区電機電子工業同業公会が、対中投資を行っている台湾企業を対象に毎年実施しているアンケート調査によると、少なからぬ台湾企業がトラブルの解決手段として「台商協会」を利用していることが分かる。その回答数は、「現地政府」を通じた解決、「個人的人脈」を通じた解決に次いで多い(図表)。しかも特筆すべきは、「台商協会」を通じた解決の満足度が高いという点である。「非常に満足」、「満足」の回答率を足し合わせると、「台湾協会」を通じた解決の満足度は78.7%となり、他の解決手段を上回っている。全国工業総会も毎年同様の調査を行っているが、2~3割の台湾企業が「台商協会」を通じてトラブル解決を図っているとの結果が得られている。
むろん、トラブルの性質や深刻度によっても解決手段の有効性は異なるだろうが、以上の結果から「台湾協会」が在中台湾企業にとって、トラブル解決の重要な手段となっていることは確かだといえるだろう。実際、ヒアリング調査を行っても、免許不携帯で警察に捕まった台湾人ビジネスマンへの便宜供与など日常生活上の問題から、大きなビジネストラブル解決まで、「台商協会」の中国側関係者が支援を行っているようである。
また、「台商協会」は現地地方政府との強いつながりをベースに、法律・経済・ビジネス情報を台湾企業に提供している。中国に進出した台湾企業は、こうした現地に立脚した情報を入手するとともに「台商協会」の他の会員とも情報を交換している。「台商協会」を通じて投資環境改善要求を現地政府に提出することも少なくないようだ。先般、中国で加工貿易関連規定の改定が行われたが、その緩和要求を提起した「台商協会」も少なくなかったもようである。
日本企業も情報を活用
日本企業の中には、「台商協会」が提供している情報を直接的、間接的に活用しているケースがみられる。例えば、台湾子会社名義で、進出先の「大陸台商協会」に加盟し、現地情報を入手している日本企業がある。日系企業仲間から得られる情報に加えて、台湾系企業や現地政府関係者が持っている情報も入手しやすくなり、より正確な情勢判断が可能になるとの判断からである。
また、直接台商協会に加盟しなくとも、台湾人幹部が「台商協会」に入会し、そこから得られる各種情報を用いて賃金制度の見直し、調整を行っているケースもみられる。
台商協会によって加盟条件が異なる可能性もあるため確認は必要だが、とりわけ台湾子会社を通じて対中投資を行っている日本企業にとっては、「大陸台商協会」が持つ機能を活用できる余地があるといえるのではないだろうか。
みずほ総合研究所 アジア調査部 伊藤信悟