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第4回 対外直接投資は台湾の雇用を減らした主因か?


ニュース その他分野 作成日:2007年8月22日_記事番号:T00002232

台湾経済 潮流を読む

第4回 対外直接投資は台湾の雇用を減らした主因か?

 
 対外直接投資(以下、FDIと略)というと、雇用を奪う悪者であるという見方をされることは決して少なくない。それは台湾においてもそうである。では、台湾企業のFDIは台湾内の雇用にとってマイナスに働いているのだろうか。

 中華経済研究院の研究者が行なった調査によると、答えはノーである。台湾の場合、FDIを行っている企業のほうが、行っていない企業よりも、台湾で多くの雇用を生み出している(図表)。
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 直近のデータは2002年とやや古い。ただし、同年はITバブル崩壊で失業率が急上昇した翌年であり、かつ、対外直接投資が急増した時期でもある。そのような激しい雇用・構造調整が行なわれた時期であっても、FDIを行っている企業の就業者数の伸び率は対93年比7.0%で、FDIを行っていない企業の▲9.8%と比べて遥かに高い(93~02年の間、一貫して「存続」していた企業のみ対象)。FDIを行っている企業の方が台湾の雇用創出に貢献しているのである。

 ただし、中国にしか投資を行っていない企業の就業者数は、同期間中に▲15.7%と大幅に減少している。これはどう解釈すればよいのだろうか。対中投資の制限をさらに強化すべきとの政策的なインプリケーションがここから導き出せるのだろうか。

 中国にしか投資をしていない企業は、労働集約型で小規模な企業が多い。それに対し、中国以外にも投資できる企業は、多国展開できるだけの人材、組織運営能力、マーケティング能力、技術力を持っていると見なせる。FDIを行うには、自国とは異なる環境でのハンディキャップを背負った形での勝負となるが、台湾企業にとって中国は言語的・文化的に近いことから、そうしたハンディキャップは小さい投資先である。中国にしか投資をしていない企業と多国展開している企業との間には、能力面での差があると考えてよい。そうした能力の差が台湾内における雇用創出力の差となって現れているといえよう。

 つまり、「中国に投資をすると台湾の雇用が減る」のではなく、「中国にしか投資できない企業は台湾での雇用を生み出しにくい」と解釈すべきである。求められる対策は、企業の高度化支援や人材育成であり、対中投資の規制強化はむしろ台湾経済にマイナス影響を与える可能性が高いのではないだろうか。

 次回はその理由について検討する。

伊藤信悟(みずほ総研アジア調査部 上席主任研究員)

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