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第3回 台湾人従業員が受け取る「成長の分け前」の縮小と変質


ニュース その他分野 作成日:2007年8月8日_記事番号:T00001987

台湾経済 潮流を読む

第3回 台湾人従業員が受け取る「成長の分け前」の縮小と変質


 前回7月25日号で、高額所得者世帯を除くと、可処分所得が伸び悩んでいるがゆえに、経済成長率は比較的高い水準にあるものの、家計は豊かさを実感しにくいことを説明した。では、なぜ家計、とりわけ低所得者世帯の可処分所得が伸び悩んでいるのだろうか。

図表:GNPの構成の変化
T000019871

(資料)行政院主計処ホームページ


 図表は、GNP(国民付加価値生産額)がどこにどのような形で分配されているのかを整理したものである。これをみると、近年の台湾では付加価値の分配に次のような特筆すべき特徴があることがわかる。具体的には、①雇用者報酬(労働に対する対価としての賃金支払い)への分配率の低下、②家計帰属の営業余剰・財産所得(主に利子・配当等)のシェアが拡大傾向、③固定資産減耗のシェア拡大(減価償却に相当)の3点である。

 この3つの変化は、労働集約型から資本・技術集約型へという産業構造の高度化のダイナミクスによって起こったと考えられる。

 台湾企業は、賃金水準の相対的な上昇を背景に、大規模な設備投資を必要とする業種へと構造転換を図ってきた。その結果、設備投資負担が高まる趨勢にある。それが固定資産減耗のシェア拡大、雇用者報酬抑制圧力となって表れているのである。さらに、単純労働への依存度が低下したことで、「構造的失業」がとりわけITバブル崩壊後の2001年以降に顕在化し、雇用者報酬のシェア低下をもたらしている。

 90年代までは、単純労働の吸収先として建設業やサービス業が大きな役割を果たしてきた。しかし、財政赤字削減圧力や野党からの公共投資予算の削減要求などを背景に、建設業は低迷、サービス産業についても製造業同様、高度化、IT導入が進められたことで、従来よりも単純労働の吸収力を低下させた。

 技術者・高級管理職は技術集約型産業の発展により供給不足が深刻化し、その引き留めを図る手段としてストックボーナスが与えられてきたが、それは財産所得の形でかれらに還元される。それに対して、低所得者はストックボーナスの恩恵にはあずかりにくく、また賃金が伸び悩むなか、財産形成余力が低下した。

 かくして、教育水準が相対的に低い低所得者層を中心に豊かさを実感しにくい環境が形成されたと考えられる。このように、多くの家庭が豊かさを実感できない背景には、景気循環的要因もさることながら、構造的要因が横たわっているとみたほうがよいだろう。

 再び対外直接投資の問題に立ち返ろう。対外直接投資は果たして家計が受け取れる「成長の分け前」の伸び悩みをもたらした主因なのだろうか。次回は、対外直接投資は台湾内の雇用拡大を促しているのか、逆に雇用削減的に働いているのかについて考える。

伊藤信悟(みずほ総研アジア調査部 上席主任研究員)

 

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