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第1回 死の握手


ニュース 政治 作成日:2014年2月20日_記事番号:T00048725

ニュースに肉迫!

第1回 死の握手

 読者の皆さん、こんにちは。ワイズニュース編集長の吉川直矢です。今号より台湾の政治や時事問題の話題を取り上げるコラム、「編集長のニュースに肉迫!」の連載をスタートします。第1回は、馬英九総統が握手などで接触した人に不幸をもたらすといううわさが広まっている現象を紹介します。


その握手が惨禍を招く?(中央社)

 19日、インターネットを通じた衣服の販売で、まだ30代の若さで大成功を収めた「東京著衣」の経営者夫婦が昨年10月に離婚していたことが大手紙で報じられた。そして離婚の1カ月前に馬総統が同社の嘉義物流センターを訪問していたことが分かり、ネット上では「またか」の声があふれた。

 馬総統は、接触した人が死亡や大けが、離婚など不幸に見舞われることが相次ぎ、1年ほど前から「死の握手」として大きな話題になっている。少々長くなるがインターネットから主なものを拾ってみた。

【死亡】
・07年1月6日 馬総統が伝統人形劇「布袋戯」の名人、黄海岱氏の107歳の誕生会に赴いて祝う。黄氏は翌月死亡。
・07年9月24日 日月潭の遠泳大会に出場。大会では2人死亡2人けが。
・08年10月21日 国軍軍事院校の三軍合同卒業式で訓示。同日夜、海軍ヘリコプターが花蓮沖で墜落し1人死亡2人重軽傷。
・09年4月13日 南投県仁愛郷の高山茶を「松韻茶」と命名。21日に「松韻茶」の生みの親である沙布依波谷・仁愛郷農会理事長が脳出血で死亡。
・09年4月19日 宜蘭県で行われたマラソン大会に参加。54歳の男性参加者が突然死。
・09年4月24日 海峡交流基金会(海基会)代表団を接見し、中国側へのあいさつを伝える。台北市で工事用クレーンがビル上部から中国人観光客を載せた大型バスに落下し、3人死亡3人けが。
・09年8月10日 台風8号(モーラコット)での災害で、救援ヘリコプターが遭難して2人死亡。2人は出動前に馬総統の激励を受けていた。
・09年8月10日 馬総統の警護担当のSPが任務終了後に拳銃自殺。
・11年4月27日 国民党、12年総統選で馬総統の再選に向け公認候補とすることを正式決定。阿里山鉄道が脱線し5人死亡、107人重軽傷。

【疾病】
・09年5月31日 エルサルバドルでクリントン米国務長官と握手。クリントン長官は6月17日、転倒して右ひじを骨折。
・11年12月25日 台湾4大仏教団体の一つ、「仏光山」の総長、星雲大師と握手。星雲大師は2日後に脳卒中で入院。
・13年3月21日 野球のWBC台湾代表チームを接見し、メンバーと握手。7月18日、4番打者を務めた林智勝外野手(ラミゴ・モンキーズ)が交通事故で左膝じん帯断裂の大けが。

【災害】
・09年5月28日 中米の友好国ベリーズを訪問した当日、同国沖のカリブ海でマグニチュード7.3の大地震が発生。
・11年3月11日 日本の海部元首相と会談し、故宮の文物の日本での展示計画などについて話し合う。午後、東日本大震災が発生。

【不運】
・08年5月20日 総統就任。4か月後に世界金融危機。
・09年8月2日 プロ野球、ラニューの試合で始球式を務める。ラニュー8連敗を喫する。
・10年6月29日 テニスのウィンブルドン大会で男子準々決勝に勝ち残った台湾の盧彦勲選手を電話で激励。盧選手は翌日ストレート負け。
・11年4月28日 米ヤフーのキャロル・パーツ最高経営責任者(CEO)を接見。パーツCEOは同年9月に解任。
・13年3月5日 WBC1次ラウンド韓国戦を応援。8回に逆転負け。
・13年3月8日 WBC2次ラウンド日本戦を応援。9回に追い付かれて延長で敗戦。

【事故】
・07年7月4日 猫空ロープウエー開業。試乗した際に故障で郝龍斌台北市長と共にゴンドラ内に閉じ込められる。
・09年3月7日 布袋戯フィルムの製作所を訪問。同製作所は11月火災に見舞われる。
・09年12月14日 台北市の龍山寺を訪問。翌日停電が起き、黒煙が立ち込める。
・13年12月13日 米国から購入したアパッチ戦闘型ヘリコプターの引き渡し式に参加。18日、米国で部品に問題があることが分かり、購入した30機が飛行停止に。

芸能人も相次ぎ病気に

 08年の総統選の選挙集会で応援に立ち、病気に見舞われた芸能人も多い。

・文英(女優) 09年8月に肺がんで死亡
・郭美珠(女優) 08年11月に乳がん罹患(りかん)
・陳松勇(俳優) 09年3月に眼病で一時失明危機に陥ったことが報じられる
・陳麗麗(女優) 09年3月に脳卒中。その後認知症を患ったと伝えられる
・高凌風(歌手) 14年2月、白血病で死亡
・王静瑩(女優・歌手) 09年9月離婚
・庾澄慶(歌手) 09年に妻の不倫が発覚し離婚

 12年の総統選では、馬総統の主張する「1992年の共識認識」への支持を表明した王雪紅董事長率いるスマートフォンの宏達国際電子(HTC)が、それ以降業績悪化が顕著になった。13年末時点で、馬総統の「実績」は、死亡31人(うち16人は接触後1カ月以内に死亡)、けが・病気147人、重大災害10件などという「まとめ」もある。

 ただ、馬総統が会った後に死亡した人では、昨年7月に94歳で亡くなった王作栄・元監察院長など、高齢で病に伏せていて最後に慰問に訪れたというケースが多い。また、総統は人に会うことが重要な仕事だ。狭い台湾では、各界の重要人物で馬総統に一度も会ったことがないという人を探す方が難しいのではないだろうか。このため、接触した人の中から不幸な目に遭った人や、敗れたスポーツ選手を意図的に探し出せば、こうしたリストは作れる気もする。

 馬総統は、地価・物価上昇による市民の生活苦に手を打てず、大中国的な思想から人気がない。「死の握手」のうわさは「何もかも馬総統が悪い」という一部庶民の気分を代弁してもいよう。

 それでも、もろもろの事情を考慮してもすごい「実績」だ。国家指導者や企業経営者にとってはその人物が持っている「運」も重要な要素と思われるが、この点馬総統は明らかに「持っていない」指導者なのだ。本人にとっては不本意だろうが、任期の残りの2年余り、台湾は良くなりようがないと考える人が増えても不思議ではないだろう。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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