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第6回 蔡英文氏に立ちはだかる壁


ニュース 政治 作成日:2014年4月18日_記事番号:T00049830

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第6回 蔡英文氏に立ちはだかる壁

 最大野党・民進党の蘇貞昌主席は14日、5月25日に予定される次期主席選挙への出馬を見送ると表明した。これにより、既に立候補を表明している蔡英文前主席の返り咲きが確実となった。 


党主席選への立候補を届け出た蔡英文氏(右)。指導層の世代交代促進も課題だ(17日=中央社)

 蘇主席は、中台サービス貿易協定に反対したヒマワリ学生運動で最大の敗者となった感がある。民進党は同協定は台湾経済への悪影響が大きいとして中国との再交渉を求める立場だが、蘇主席は昨年、予定されていた馬英九総統との直接討論を敵前逃亡と受け取られる形で回避し、有権者の前で主張を堂々と開陳することはなかった。また、馬政権の「密室決定」を追及したり、政策決定のメカニズムが不透明であるならば改善案を出すのが野党の本来の仕事のはずだが、批判の声を上げ世論をリードしたのは政治には素人の学生たちだった。

 立法院占拠が膠着(こうちゃく)状態に陥っても、民進党の立法委員らは学生の主張を引き受けて国民党と渡り合うこともなかった。結果、占拠は24日間の長きに達した。結局行ってきたのは立法院での審議阻止の実力行使ばかりで、協定が承認に向かうことを防いだかもしれないが、議会制民主主義の信頼を落とす行為で、台湾経済の浮沈に関わる可能性がある重要協定であるだけになおさらそうした印象を強めてしまった。

 本来、馬政権の対中傾斜に懸念が強まっている現在は、民進党にとっては2年後の総統選挙で政権奪回をうかがう好機のはずだ。しかし現状は抵抗野党のメンタリティに溺れたままで、蘇主席は蔡英文氏が出馬を決めた時点で党内の混乱を回避するため続投を断念したと語ってはいるが、学生運動で存在感をほとんど示せず支持層を失望させた結果、事実上の退陣に追い込まれたようにも見える。

本質的な葛藤期

 次期主席に復帰する蔡英文氏は、民進党の評価を回復させ、今年11月の統一地方選での勝利を経て2年後に政権奪回を果たすことが命題となる。しかし、非常に厳しい道のりが予想される。それは、同党が本質的な葛藤期に置かれているため、党勢を強めるには極めて不利な状況だからだ。

 馬政権は「一つの中国、それぞれの解釈」のいわゆる「1992年の共通認識」に基いて対中関係を改善、中台間の経済関係を後戻りできない水準まで持ってきた。民進党が政権交代を目指す場合、この「一つの中国」の前提をクリアできなければ政治はもとより経済関係が冷え込み、台湾は相当な打撃を覚悟しなければならない。すなわち「一つの中国」を中国が受け入れる形で認めない限り、中台関係の安定を求める中産階層の幅広い民意から離れてしまうのだ。 

 「中国と交流できる政党」への脱皮の必要性は党内でも認識されており、謝長廷元主席が昨年6月に国務院台湾事務弁公室(国台弁)の張志軍主任と会談するなど積極的な動きを見せているほか、ヒマワリ学生運動の終了後、党国際事務部主任を5期努めた蕭美琴立法委員が、「中国と安定した交流の基礎を形成するテーゼは、2016年の総統選で避けられない問題だ」と自身のホームページで訴えたりしている。

 しかし「一つの中国」を認めれば民進党は根底から存在意義が問われ、支持者の離反を招く。謝長廷氏の中国訪問には姚嘉文氏、游錫堃氏らの重鎮が批判を浴びせたほか、党内の対中関係の共通認識をまとめる目的で設置された中国事務委員会でも今年1月、従来の立場を変更しない方針が確認された。

求められる構想説明

 蔡英文氏の主席復帰後の民進党は、対中協調が必要な現実主義と台湾独立の理想主義のはざまで、これまで以上に強い葛藤を強いられることになりそうだ。従来の姿勢を貫いたら多数は取れず、現実主義を志向したら党は混乱、分裂があり得る。

 しかし、政治課題は待ったなしでやって来る。蔡英文氏は就任後、まず中台サービス貿易協定の取り扱いを含めた対中関係と台湾の地域経済統合で、どちらを優先しどのように進めていく構想なのか明確な説明を行うべきだろう。民主主義は台湾の重要な強みで、民進党も実のある議論によってそれを強化、発展させていく責任がある。サービス貿易協定の審議のように毀損(きそん)ばかりしていることは許されないのだ。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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