第8回 ヒマワリの子どもたち


ニュース 社会 作成日:2014年5月16日

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第8回 ヒマワリの子どもたち

記事番号:T00050371

 弊社のオフィスは台北市光復南路に面している。先週、都市交通システム(MRT)国父紀念館駅に向かって同道路を下ると、野球などの多目的施設となる、台北ドームの建設工事が行われている敷地を仕切る金属製の壁に、「木を守ろう」などと書かれたポスターが多数張られ、若者が壁際にシートをずらっと並べて座り込み、指揮センターらしきテントが設営されているのに出くわした。ずっと小規模ながら、1カ月前に終わった立法院占拠したヒマワリ学生運動を思い出した。


17年の台北ユニバーシアードを宣伝する壁面が、遠雄や台北市を批判するポスターで埋まった(YSN)

引き抜き中断に持ち込む

この運動は、不動産開発大手、遠雄企業集団(ファーグローリー)が台北ドームの建設に当たって、4月下旬から敷地に面した光復南路と忠孝東路でキワタやフウの街路樹を引き抜いていることに抗議するものだ。街路樹の引き抜きは両道路の拡張と大型地下道の建設のためで、引き抜いた木は南港区に建設される北部流行音楽センターの周囲に移植される予定だ。ただ、運動グループは、遠雄に本来許可された開発範囲は敷地内だけで道路は含まれない上、引き抜きの手法が粗暴で木をだめにしてしまう恐れがあり、引き抜きを中止して木を現在のままとどめるべきと主張している。

 遠雄は光復南路で、市民大道から忠孝東路までの間の街路樹を全て引き抜く計画だが、抗議メンバーが木の幹にロープで体を巻き付けるなどして抵抗した結果、引き抜き作業は中断し、現時点で3分の1が残っている。運動はすでに3週間に及ぶが、推進グループの「台湾護樹団体聯盟」によると、遠雄側が木の引き抜きを断念するまで続ける考えだ。なお、台北市政府は「遠雄による木の移植は合法」との立場だ。

 現在、現場で座り込みなどの活動に参加しているのは20人ほどだ。台湾護樹団体聯盟の広報担当、潘翰疆氏によると若者の参加者はほとんどがヒマワリ運動を現場で経験している。友人の紹介で運動に加わったという大同大学(台北市中山区)1年の夏鈺順さん(18)は、「毎日1時間しか眠れなくて辛かったけれど、学校では学べない達成感を味わった」とヒマワリ運動を振り返った。両親が国民党支持者のため反対を受けたが、黒箱(ブラックボックス)の協定は許せないとの思いで参加した。運動を通じて、市民1人1人の力で社会を動かすことができる「自主」の大切さを最も学んだという。立法院を去る際には「勝ち取るべき成果を勝ち取れた」と感じたと語った。

 潘氏によると、当時、立法院の現場では、1号門を守る学生たちは「1組」、2号門のグループは「2組」となり、それぞれ入り口を死守しようと誓い合って連帯感を育んだという。「『護樹運動』はヒマワリ運動の大きな影響を受けている」と潘氏は強調した。

 一方、新北市新荘区のハンセン病療養施設、楽生療養院の建物保存を求める市民運動も、最近は学生らの加入によって再び盛り上がりを見せている。先週9日には代表者らが台北市政府を訪れて、隣接する 都市交通システム車庫の工事によって一部の建物に亀裂が入ったとして、工事の即時停止などを主張したが、警官隊と小競り合いになり8人の逮捕者を出した。台北市西門町では、サービス貿易協定に反対する看板を掲げて1人で繁華街に立つ女子大生も現れた。

冷ややかな反応も

 彼らは皆「ヒマワリの子どもたち」なのだ。光復南路の街路樹の現状維持にそこまでの意味があるのか、台北ドームは一度に数万人が利用するため道路を拡幅した方が便利なのではないかという議論はさておき、ヒマワリ運動が若い世代の社会的イシューに対する責任感、民主主義を擁護する意識を高める効果を生んだのことは間違いないだろう。

 しかしこうした動きに対して、冷ややかな反応が産業界から出ている。鴻海精密工業の郭台銘董事長は今月8日、「民主で飯は食えない。GDP(域内総生産)に何の役にも立たない」と発言。中華民国全国商業総会(商総)の頼正鎰理事長(郷林建設董事長)は「最後に腹をすかすのであれば、そうした民主は偽物だ」と指摘した。ヒマワリ運動によって、中台サービス貿易協定、および後続の物品貿易協定は確実に発効が遅れることになり、台湾経済の競争力にとってマイナスなのは明白な以上、こうした指摘を行う気持ちは理解できないわけではない。

 だが、誰もが名前を知るような有名企業家が、経済と天秤にかけて民主主義は無意味と言わんばかりの発言をするところに、台湾の民主主義を取り巻く環境の未成熟さが浮き彫りになっている。こうした環境だからこそ、若者たちはまだ歴史の浅い台湾の民主主義を不断に守り、育てていく必要があるとの認識の下、運動に覚醒するのだ。大体、民主のない社会は自由も失い、それは経済活動にも悪影響となって跳ね返ってくるはずだ。

手法が重要に

 この点において、反サービス貿易協定運動も、それから派生した運動も、今後の立ち振る舞いが重要になると思われる。「理想のために実力行使」といった行動を延々と続けた場合、一般市民との間に距離感ができてしまうことは明らかだ。誰にどのような迷惑、悪影響を与えるかを考えず、そこへの配慮が全くないのであれば、その運動は「本物」ではない。


「台湾人民は勇敢に立ち上がれ」と訴えるメンバー。彼らの思いはどの程度市民に届くのだろうか(YSN)

若者らの中には正義を叫ぶ快感を覚えた者も少なからずいることだろう。だが、若者たちが正義を振りかざして行動し、それを民主主義の意義をまともに考えたことのないであろう企業家などが批判するといったことが今後繰り返されるようであれば、民主主義の発展にとってマイナスであることは言うまでもない。ヒマワリ運動が一段落した今こそ、運動の手法に十分な省察を行うことを若者たちに望みたい。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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