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第11回 故宮展「国立」表記騒動、台湾は何に怒ったのか


ニュース 社会 作成日:2014年6月27日_記事番号:T00051191

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第11回 故宮展「国立」表記騒動、台湾は何に怒ったのか

 国立故宮博物院(台北市士林区)の文物を日本で初めて展示する特別展が今週24日、東京国立博物館(東博)で始まった。東博が制作した宣伝ポスターとチケットには「国立故宮博物院」と表記されたが、日本の協賛マスコミ8社(NHK、NHKプロモーション、読売新聞、産経新聞、毎日新聞、朝日新聞、東京新聞、フジテレビ)が手掛けたものに「国立」の2文字が記載されず、2種類が併存することになった。「国立」表記が落とされたことに、馬英九総統が開催中止もあり得るとの強い姿勢で不快感を示したことは本紙で報じたとおりだ。


問題となった「国立抜き」の宣伝ポスター(中央社)

 故宮博物院はれっきとした台湾の中央官庁で、そのトップである院長は部長(大臣)と同クラスの扱いだ。中国古代からの貴重な文化遺産69万6,000点を収蔵する世界最高の博物館の一つであり、そこに相応の自負があるのは言うまでもない。26日付聯合報によると、故宮は米国、フランス、ドイツ、オーストリアの4カ国で文物の展示を行った実績があり、その際すべて「National Palace Museum」、すなわち「国立」との表記がなされたという。また、日本での故宮展開催も、故宮を代表する至宝「翠玉白菜」「肉形石」を初めて海外で展示することも、全て日本側から要請したものなのだ。

 こうした事実と経緯を見れば、「国立故宮博物院」の正式名称を使用して敬意を示してほしいという台湾側の心情は当然と言えるだろう。

信義違反を問題視

 馬総統の姿勢に対しては、民進党の立法委員や野党寄りメディアが、馮明珠故宮院長が昨年11月に北京の故宮博物院を訪れた際に「台北故宮院長」の肩書で講演し、「国立抜き」に抗議しなかったことを挙げて、「ダブルスタンダード」「中国には軟弱、日本には強硬」「日本に対する強硬姿勢を北京に見せたかったのではないか」などと批判している。しかし、これは違うと思う。

 今回は昨年10月、故宮と東博の間で「図録、DVD、映画など制作物で作品を紹介する際は、国立故宮博物院の正式名称を使う」旨の協約書が結ばれており、同協約書に縛られない協賛マスコミの行ったことであっても、台湾側から見れば「国立抜き」が信義違反に映るのは仕方がないことだ。


馮故宮院長は東京から帰台後の記者会見で、「日本側への抗議は正当だった」と強調した(中央社)

 また、馬総統に肩入れするわけではないが、中華民国憲法で規定されている(大陸地区と台湾地区)「一つの中国」を基本的立場とする以上、外国でない中国と外国である日本とで対応を異にするのは当然のことなのだ。馬総統は24日、「日台関係を傷付けた」という民進党の批判に対し、「日本の立場に立っており、台湾の尊厳を顧みない姿勢は許せない」と強い口調で非難した。「故宮展開催に誠意をもって協力したのに、台湾側の『国格』をおとしめた隣国の姿勢には問題がある」ということだ。馬総統は感情的には日本を好ましく思っていないであろうが、友好関係を重要と考えているからこそ故宮展を推進したのだ。全くの反日家であれば故宮展はそもそも実現していないだろう。

意思疎通不足が混乱招く

 しかし、日本のマスコミ各社は日頃、台湾を国として表記していない。このため、その制作するポスター・チケットが「国立抜き」になることは予見できたはずだ。大手紙が2カ月ほど前に組んだ故宮展特集に「国立」の文字はなく、6月上旬には「国立抜き」ポスターが東京で張られ始めている。大使館に当たる台北駐日経済文化代表処は知っていたはずだが静観し、総統府が16日に台湾メディアからの「ご注進」を受けて事情を知り問題視したという。

 これによって、開催直前になって台湾側の抗議、日本側の陳謝とポスター張り替え、周美青総統夫人の訪日中止という混乱が演じられることになった。日本人は「馬総統はやはり反日」「大手マスコミは中国に配慮する反面、台湾に失礼」という従来からのイメージを改めて抱いたのではないだろうか。こうした事態を避けるために故宮展での「国立」表記をどうするか、台湾側と東博、協賛マスコミの3者の間で事前に意思疎通が図られるべきだったと思う。

 ともあれ、故宮展が無事に開催されたことは現在の良好な日台関係を象徴している。多くの市民が東京と福岡の会場に足を運び、この素晴らしい企画が成功するよう願いたい。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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