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記事番号:T00051878
2014年8月1日15:52

 7月31日は公務員・政府機関の不正を監督する監察院で、2008年より務めた監察委員(任期6年)の任期満了の日だった。この日を最後に公職を退く銭林慧君委員(66)は記者会見を開き、ある男性に対し「生きている限り追及を続ける」と宣言した。


銭林慧君監察委員は、郭冠英氏の退職金問題に全台湾住民が目を光らせるよう訴えた(31日=中央社)

 その男性とは郭冠英氏(65)だ。2週間前の7月15日、中央政府の出先機関である台湾省政府を定年退職した。2009年3月に数々の問題発言で当時の行政院新聞局を免職処分となった後、今年3月に採用試験を経て台湾省政府の外事業務秘書に任官し、5年ぶりに公職に復帰した。1カ月後の4月22日に65歳の誕生日を迎えて法定退職資格と在勤25年の自主退職資格を同時に満たし、退職金として毎月6万台湾元以上を受領できる権利を得た。そして、規定上での最短勤務期間である7月15日で省政府を辞めたのだった。


郭冠英氏。台湾を見下し切ったその論説は、実は外省人の間でも評判が悪い(YouTubeより)

 退職金を得るためだけにたった4カ月間勤めたにしか見えないこの任退官劇は、いかにも公務員による公費私物化で問題だが、主役が郭冠英氏であったために台湾住民の憤激を呼んだ。

差別意識丸出し

 郭氏は新竹出身の外省人で、中国電視(中視、CTV)や聯合報など国民党寄りのメディアを経て、1984年に政府広報機関の行政院新聞局(2012年に中央政府機関再編で廃止)に任官した。

 駐トロント台北経済文化代表処で新聞組長として勤務していた2009年3月、「范蘭欽」「郭才子」などのペンネームで、自らを「高級外省人」と呼びつつ台湾本省人を侮辱しまくる論説を多々発表していたことが明るみになり、一躍台湾全土でその悪名を知らない者はいないほどの有名人になった。

 その言説には例えば以下のようなものがあった。

▽「台湾の2,300万人のうち2,000万人は頭がおかしいと言っても言い過ぎではない」

▽「228事件当時の蒋介石、陳儀の(編注・台湾住民を弾圧した)対応は極めて正しく、その誤りはせいぜい判断を間違って(台湾住民に)寛大にしたことぐらいだ」

▽「一般的には雑種であることを恥じるのに、台湾人はそれを誇りにしている」

▽「台湾は(編注・中国に)『回帰』する資格は全くなく、武力解放後は独裁あるのみだ。陳儀は台湾で仁政を行った結果、倭寇(編注・親日的な台湾人を指すとみられる)に造反の機会を与え、228事件を起こされた。この教訓から武装を緩めてはならない。われわれ中国人の血が流れたら、倭寇を徹底的に打ちのめすだけだ」

▽「台湾は単に中国から離反した一省で、どこに『主権』があろうか。自ら廃止したため省ではないし、ましてや国ではない。『鬼島』だ」

 郭氏の言論は中国人としての優越感と台湾本省人に対する露骨な差別意識で貫かれており、日本人に対する嫌悪感、蒋介石時代の白色テロへの支持も特徴だ。

 果たしてこれが中央政府の幹部が公言してよい内容かと当時非常に問題になり、郭氏は結局、新聞局から免職処分、監察院からは弾劾を受け、3年間公務員として任官することも禁じられた。あとわずかな期間勤めれば得られた退職金も水の泡となった。郭氏の動静はその後報じられなくなったが、「高級外省人」「鬼島」など郭氏が創作した言葉はその印象の強さゆえに広まり、台湾人が台湾を自虐的に「とんでもないところ」といったニュアンスで呼ぶ場合、「鬼島」は普通に使われるようになった。

 なおこの時に弾劾を行ったのも銭林委員だった。銭林委員はかつて台湾団結聯盟(台聯)で立法委員を務めた筋金入りの台湾本土派で、外省人による本省人差別を直接体験した世代でもあり、郭氏に強烈な反感を抱いていることは疑いない。

省政府、合法性を強調

 銭林委員によると、郭氏は省政府の採用試験で、7人の応募者のうち管理職者による評価は最低だった。しかし、林政則省政府主席が面接も行わないまま「立派な学歴と職歴を持つ」との理由で最高点を与えたことで一挙に逆転、採用が決まった。

 銭林委員はこうした経緯から7月3日、郭氏の任官は「定年退職が近い者を採用してはならない」と定めた公務人員任用法に違反しており無効だとして省政府に是正勧告を行うともに、公務員の任官や退職などの事務を取り扱う銓敘部に対しても、「郭氏に退職金を支給すべきか慎重に検討すること」を求めた。社会問題になったため、現時点で郭氏への退職金支払いは凍結されている。

 これに対し省政府側は31日、「郭氏の採用は法律にのっとって行っており有効」と表明。監察院の是正勧告に対しては改善措置を取るとしつつも郭氏の採用自体に問題はないという立場を示した。退職金の支払いについては銓敘部で判断すべきとした。

公務員ばかり厚遇

 郭氏の省政府任官には中央政府高官の推薦があり、それゆえ選抜はほぼ出来レースで進んだという。免職になったままでは気の毒だから何とか退職金を得られるように計らってやろうという意志が働いたのだろう。そこには、支持基盤としての公務員を厚遇する国民党政権の伝統が垣間見える。

 ちなみに郭氏が退職金を得られるようになった場合は、公務員であったがゆえに退職金を年率18%の特別優遇利息で預けることができる。一般の勤労者は、4カ月だけ働いて退職金をもらえる恩典にあずかる機会もなければ、利率18%を享受できることもない。政府の財政が厳しい中、公務員ばかりが良い目を見るのは実に不公平ではないか。

 今回は郭氏だからこそ大きな話題を呼んだが、問題は郭氏個人にあるのではなく、公務員にこうした特権を享受させ得る制度にあると言える。この制度の改革を放置しているようでは、馬英九政権の行政改革への取り組み姿勢が疑われる。

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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