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第17回 国民党必敗の統一地方選


ニュース 政治 作成日:2014年9月5日_記事番号:T00052536

ニュースに肉迫!

第17回 国民党必敗の統一地方選

 11月29日の統一地方選挙で、立候補の受け付けが今週行われた。統一地方選は、今年12月下旬に直轄市に昇格する桃園県を含む6直轄市の市長と議員、それ以外の県市の首長と議員など9種類、計1万人以上の公職者を選ぶ今年の一大政治イベントだ。馬英九政権2期目への中間評価、および2016年の総統選の前哨戦としての意味も持っている。

 そして、国民党に不利な結果になる可能性は濃厚だ。馬総統の人気は低迷したままで、今年台湾経済は堅調とは言え政権の業績に対する有権者の評価は高くない。以前当欄で伝えたように台北市の連勝文候補は若い世代に人気がなく、ニューヒーローはいない。6直轄市のうち、勝利が確実なのは朱立倫氏が再選を目指す新北市くらいと報じられている。桃園市と台北市は最終的に国民党が優勢になると思われるが、台中市は多選批判から現職の胡志強市長の落選が現実味をもってささやかれている。台中市長選で民進党に敗れれば1997年以来で、ここを落とせば他県市の結果がどうであれ敗北の印象は拭い難いだろう。


台中市では2日、民進党の市議候補8人が共同で立候補の届け出を行った。「市長を変えてこそ台中に希望がある」と熱く訴えた(中央社)

陣営の分裂相次ぐ

 国民党はさらに基隆市と新竹県で分裂選挙を強いられることになった。基隆市では公認候補だった黄景泰市議会議長が汚職で検挙されたため、急きょ別の候補者を立てたが黄氏は出馬を強行。国民党は党籍を取り消す処分を下したものの、陣営分裂によって同市では13年ぶりに民進党市長が誕生する可能性がでてきた。また、新竹県は鄭永金元県長が、国民党を離党して現職の邱鏡淳氏に挑むことになった。

 こうした情勢から国民党は09年の県市長選と10年の直轄市長選で得た15県市を下回るのは確実で、現状からは党主席を兼ねる馬総統が党内をコントロールできていない実態が浮かび上がったと言えるだろう。

過去の野党大勝は政権交代へ

 台湾では李登輝政権下の97年、陳水扁政権下の05年の県市長選で野党が大勝し、その後の政権交代を導いた実績がある。それゆえ、今回も国民党の退潮が16年の再度の政権交代への道筋を付けるのではないかという期待感が野党サイドにあるようだ。

 しかし、一概に過去2回の例になぞらえることは難しいのではないか。00年の国民党から民進党への初の政権交代は、戦後50年以上にわたる長期統治下での腐敗進行や暴力団の政治介入に有権者が嫌気が差していた下地があったことに加え、何と言っても国民党の分裂という幸運に恵まれた。

 また、05年の県市長選は、国民党に立法院を抑えられて激しい政治対立の下で民進党の政策推進が順調に進まないことへの不満、陳政権の高官の汚職事件が相次いでいたことに失望感が広がっていた中、当時国民党主席に就任したばかりでクリーンなイメージがある馬氏にニューリーダとしての期待感があった。

 97年、05年とともに時代の変化を望む空気があったのに比べて今はどうか。春に学生たちによる立法院占拠事件が起きて、馬政権の対中傾斜によって台湾が中国に取り込まれてしまうことへの危機感が示され、世論は一定の支持を与えた。しかし、対中交流の重要性までもが否定されたわけではなく、中国との間でサービス・物品貿易協定を着実に発効させて台湾企業が中国市場で競争力を保てるよう求める声は産業界を中心に根強くある。

敗北は「普通の現象」

 さらに、今の民進党に9年前の馬総統の役割を担える人物がいるだろうか。蔡英文主席に対し、有権者は12年の総統選で対中政策への不安感から馬総統の続投を選択した。そうした課題を突き付けられたものの、昨今のサービス貿易協定や自由経済モデル区への対応は旧態依然で、彼女が対中関係を任せられるほどの幅の広さ、懐の深さを身に付けたようには見えない。 

 今回、国民党は敗北するだろうが、それは総統が指導力を失いつつある2期目後半にあっては普通の現象と言えるだろう。民進党にとって総統選を戦う上で有利な要素であるが、国民党に大きな流れが生まれて8年ぶりの政権交代を導いた08年のような状況が再現されるかと言えば困難で、16年総統選は全く別の論理の下で与野党間の火花が散らされると思われる。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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