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第22回 馬英九時代、終わりの始まり


ニュース 政治 作成日:2014年11月14日_記事番号:T00053823

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第22回 馬英九時代、終わりの始まり

  統一地方選は投票日まであと2週間の終盤戦を迎えた。民進党の蔡英文主席が重点地域の中部を連日精力的に回っている一方、国民党主席である馬英九総統の影は薄い。それどころか、国民党の候補者にとって応援に来てもらうとかえって迷惑な、その不人気ぶりを象徴するような出来事が嘉義市長選の現場で起きている。

 嘉義市長選は国民党の黄敏恵市長が任期満了で退任するのに伴い、国民党の陳以真候補(37、女性)と民進党の涂醒哲候補(63)の新人2人による事実上の一騎打ちだ。涂候補にとっては前回2009年の市長選で黄市長に敗れたリベンジ戦で、序盤では陳候補を支持率で大きくリードしていた。

「国民党外し」でアピール

 しかし、国民党陣営の候補が一本化された7月下旬以降この差が詰まり始め、10月中旬には民進党寄りの自由時報の支持率調査で涂候補31.92%に対し陳候補35.47%と逆転を許す。陳候補はアナウンサー出身でルックスが良い上、外向的な親しみやすい性格で、常に街を歩いて有権者と握手を繰り返して人気を獲得していったようだ。また、国民党も民進党も関係ない「全市民のための市長」になると宣言し、自身の大型ポスターは白地を背景に国民党の名称と党章を入れず、まるで無所属候補のようにアピールしている。党派色を薄める戦術は、民進党支持者を取り込むには有効と思われた。


陳以真候補の大型ポスターの横に登場した「馬英九を支持することだ」。陳候補にとってまさかのアイデアだったことだろう(Facebookより)

 ところが10月末、市中心部の噴水広場に掲げていた陳候補の大型ポスターの隣に、白地の同じ色調で国民党党章と「陳以真への投票は馬英九を支持することだ」という文言の入ったポスターが並べられた。国民党籍なのに国民党と書いてないよと民進党支持者が「おせっかい」を焼き、あくまで馬総統が指名した候補者であると知らしめたのだった。ちなみに陳候補は馬政権の閣僚経験者(行政院青年輔導委員会主任委員、12年2〜12月)で、馬総統の子飼いの政治家とみられている。「馬英九支持」は国民党候補としては「その通り」としか言いようがないが、馬総統の不人気ぶりからすると有権者の票が逃げてしまう迷惑な話だ。

 この「馬英九支持」のポスターは、国民党支持者の抗議で噴水広場からは外されたものの、すぐまた陳候補の別の大型看板の隣に登場、今週に入っても「ここに掛けてよいですか?」の文言も加えてさらに別の場所に掲げられて話題をさらっている。民進党の支持者らは陳候補のポスターに国民党章を貼る運動を展開しており、果たしてこれが陳候補の勢いを削ぐことにつながるのか興味深い。


馬総統は今週、連勝文候補の情勢を盛り上げるべく、毎晩台北市各区の選挙集会に参加した(中央社)

台北市でも批判

 馬総統は、台北市の連勝文候補の選挙でも、票を減らす要素になっていると指摘されている。昨年、王金平立法院長との政争で、党考紀委員会が王院長の党籍剥奪を決定した当時、連候補は「今は明王朝ではない」と馬総統の「暗黒政治」を批判しており関係不和が印象付けられた。これによって、馬総統支持の末端有力者が連候補の支援に力が入らない状況が生まれているという。そもそも馬総統も、連候補の父親である連戦・国民党名誉主席との不仲は有名で、選挙応援への力の入れ方は4年前の郝龍斌市長の時に及ばないと言われている。10月末、馬総統は連候補と共に若者の多い西門町を歩いて投票を呼び掛けたが、「警護員が市民よりも多い」と批判され、目に見える効果を生むことはできなかった。

 統一地方選で国民党が台中市を失えば「敗北」、台北市でも負けた場合は「大敗北」の評価となり、馬総統に対する責任論が持ち上がるだろう。その場合、馬総統が影響力を落としてレームダック化することは必至とみられる。今回の統一地方選は、長らく台湾政界のスターとして君臨してきた馬英九氏の時代の終わりの始まりとなる可能性が高いと筆者は考えている。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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