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第24回 統一地方選・国民党惨敗の核心にあるもの


ニュース 政治 作成日:2014年12月5日_記事番号:T00054232

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第24回 統一地方選・国民党惨敗の核心にあるもの

  3日、馬英九総統が国民党主席を辞任した。11月29日に行われた統一地方選挙は馬総統にとって自身が直接関わる選挙での初の敗北となり、その政治生命を事実上終わらせることとなった。馬総統は2002年の台北市長選で圧勝して次期党主席の座を確実にし、05年の県市長選を大勝に導いて08年総統選での党公認候補の座を確保した。選挙によってつかんだリーダーの地位を失うのもまた選挙で、中央常務委員会で10秒間にわたって頭を下げ続けた姿からは政治の非情さを感じざるを得なかった。


党中央常務委員会で謝罪する馬総統。レームダック化が確実となった(中央社)

 予想を上回る国民党の惨敗は、台湾のみならず海外でも驚きをもって迎えられ、概ね「有権者が馬英九路線を拒否した」との分析で一致している。日本の産経新聞は2日付の社説で「敗因は馬政権があまりに性急に進めてきた対中接近政策が受け入れられなかったことにある。『経済協力枠組み協定』(ECFA)を締結し、中国とのサービス貿易自由化の協定批准を急いだことなどで、経済的に中国にのみ込まれてしまうとの懸念が一気に広がった」と解説した。だが「あまりに性急」であったのならば、12年の総統選ではなぜ蔡英文民進党主席を約80万票の差で破って再選できたのだろうか。今回は12年総統選での勝利と14年統一地方選惨敗の落差の持つ意味を考えたい。

2年前は問題視されず

 「中国経済にのみ込まれる」と悪評の高いサービス貿易協定は、10年6月にECFAを調印した段階で、後続協定としてその存在が明らかになっていた。中台間の自由貿易協定(FTA)に相当するECFAは第一段階がアーリーハーベストによる特定品目の早期関税引き下げで、第二段階がサービス部門の相互開放(サービス貿易協定)、第3段階がアーリーハーベストの対象外のセンシティブ品目を含む品目の関税引き下げ(物品貿易協定)だ。以前小欄でも紹介したが、台湾は既に12年の段階でサービス部門全316項目のうち半分以上を中国に開放済みだ。

サービス協定は争点にならず

 10年の段階で交渉予定が明示されていたのに12年総統選では問題視されず、14年になって「経済的にのみ込まれてしまう」と懸念が広がるのは不思議な話で、実際、時事誌『新新聞』によると、ヒマワリ学生運動が起こる直前、審議拒否を続けていた民進党の立法院議員団内にも「最終的に成立はやむなし」との雰囲気があったという。

 サービス貿易協定はヒマワリ学生運動の直接の契機になったがゆえに極端に悪者扱いされているのであり、その学生たちですら社会の納得を得られる形で問題点を説明できず、今回の統一地方選では争点にすらならなかったため、それ自体が惨敗につながる要因だったとは考えにくい。

ヒマワリ運動で局面一変

 馬政権1期目と2期目の最大の違いは、1期目では対中交流を経済に絞った一方、2期目では政治的接近を試みたことだ。馬総統は昨年6月、中台間で事務所の相互設置交渉が既に始まっていることを挙げて「両岸(中台)の広義の政治交渉は既に始まっている」と発言。10月には中台首脳による政治対話に意欲を示した。今年2月には分断後65年で初の中台閣僚級会談が開かれ、王郁琦・行政院大陸委員会(陸委会)主任委員と張志軍・国務院台湾事務弁公室(国台弁)主任との間で中台首脳会談が初めて話題に上った。

 2期目で中国への政治的接近へと歩みを進めたのは、再選で自身の路線に信任が得られたとの自信からだろう。ところがこの動きに危機感を抱いた学生たちが、サービス貿易協定の審議混乱を機に立法院を占拠したことで局面は一変する。ヒマワリ学生運動で使われた「自分の国は自分で救う」のスローガンは、台湾を中国から守る意志表明にほかならない。この事件で政治に覚醒した若い世代が反馬英九の一念で民進党や無所属候補に投じたことが、今回の選挙結果を演出した一つの要因であることは疑いないだろう。弊社のある20代の台湾人女性社員は、「とにかく国民党に勝たせたくないからという理由で民進党に投票した友人が多かった」と筆者に語った。


国民党次期主席の呼び声の高い朱立倫新北市長。就任した場合、馬総統の下での「脱馬英九路線」の推進が重要課題となる(中央社)

政治的接近こそタブー

 ゆえに今回の統一地方選挙が導き出した結論は、「中国への政治的接近は現段階でタブー」である。問題は政治的接近であって、対中交流そのものが否定されたわけではないことには注意が必要だ。呉釗燮民進党秘書長は3日、「国民党の両岸政策に対する住民投票ではなかったゆえ、国民党の両岸政策の失敗として(結果を)読み解くべきではない」と指摘した。また、3日付自由時報の報道によると馬総統自身、「敗れはしたが国家全体の路線と自由開放の改革路線は負けてない」との認識を持っているという。「中国と対話できる関係を保ち、経済交流は許容される一方、政治的交流の推進は警戒される」という現状が、国民党の12年の勝利と14年の敗北によって浮き彫りになったのではないだろうか。

 今の台湾社会が望む対中関係とは、「平和的状態の下、経済的メリットを享受しつつ統一への動きは拒否する」であると言える。このため、馬総統のような遠い将来の統一を理想とする総統が政治的関係を強めようとすれば拒絶に遭い、民進党が独立思想を押し出せば関係が不安定化するため、やはり強い不満が出る。

 国民党は惨敗によって対中交流の手法とスピードを再点検せざるを得ないが、中国と対話できず、経済協定はすべて拒否という民進党の姿勢も民意と開きがある。16年の総統選では与野党のどちらが政権を取ろうが、結局より中間の方へと歩まざるを得ないと思われる。

 ところで、政治に覚醒した若者たちの動向は、次回の総統選でも大いに注目したい。彼らは李登輝および陳水扁政権が進めた台湾アイデンティティーを重視する教育によって人格形成を遂げた世代だ。彼らにも現実的な判断はあろうが、台湾アイデンティティーにそぐわない政党は選ばない傾向が今後はより強まっていくことだろう。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 


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