第28回 馬総統レームダックに、致命的な政治センス欠落


2015年3月6日15:51  ニュース

第28回 馬総統レームダックに、致命的な政治センス欠落

記事番号:T00055708

 春節(旧正月、今年は2月19日)明けの台湾政界では、馬英九総統(国民党前主席)がレームダック化を決定的にし、国民党が名実共に朱立倫主席(新北市長)の時代を迎えたことを印象付ける出来事があった。

 朱主席は2月25日の党中央常務委員会で、王金平立法院長(国民党副主席)の党籍確認訴訟に関して、最高法院への上告取り下げを宣言する。王立法院長は2013年9月、民進党のベテラン立法委員が絡む背任事件で、検察幹部に圧力を掛けて上訴を断念させた疑惑で党籍剥奪処分を受けた。馬総統が王立法院長の政界追放を企図したことは明らかで、王立法院長は処分を不服として党籍確認訴訟を起こし、一審、二審で勝訴していた。

 昨年の統一地方選挙の惨敗後、国民党内では王立法院長に対する訴訟撤回を求める声が高まり、朱主席が中央常務委員会で上告取り下げを発表した際は盛んな拍手を浴びた。ところが馬総統はこれに不快感を示し同日、「是非を明確にすることが国民党の核心価値だ。上告撤廃は党の賞罰制度を否定し党紀違反を見逃すもので、党の信頼性に回復不能な傷を与える」などと訴える長文の声明文を発表した。


馬総統(右)は会議に先立って王立法院長(左)と握手し和解を演出したが、「あまりにわざとらしい」との批判が起きた(中央社)

 この行動は馬総統がいかに政治センスに欠けるかを如実に物語っている。自身の施政が有権者の反感を買って地方選で惨敗、来年の総統・立法委員選に向けて団結と党勢回復が最重要課題となっている時期に党内闘争を継続すべきと意思表明を行うのは非常識で、しかも王立法院長は党の総統または副総統候補になる可能性があるだけになおさらだ。

立法委員から批判相次ぐ

 馬総統の意思表明は結局、今月2日に開かれた党の立法行政部門議事進行検討会議で、朱主席が「王立法院長の党籍問題の争議は既に終わった。再び提起する必要はない」と明言したことにより徒労に終わった。馬総統はさらに、「末端支持層は心配している。批判は少なめに、度量は大きめに、怒りは小さめに」(廖正井立法委員)、「立法委員は王立法院長の党籍問題に全く関心はないが、馬総統が政務に集中するかには関心がある」(羅淑蕾立法委員)など、立法委員たちから批判の砲火を浴びる始末だった。現職総統であるため、国民党は朱氏が主席に就任しても当面は馬総統との双頭体制になるとの観測もあったが、今回の騒動を通じて馬総統は党内での権勢を大きく削がれてレームダック化が確定、その時代に事実上幕が下ろされたと言ってよいだろう。

関係不和ばかり

 馬総統は長身でルックスが良く、頭脳は明晰、自身の哲学を持ち、日頃は冷静沈着、十分な判断力と常識があり、発言も明瞭、人並み以上の体力があるなど、天性のリーダーとしての資質を持っている。筆者はかつて馬総統が台北市長を務めていた際、2度ほど市長室での記者懇談に参加したことがあり、そうした雰囲気を肌で感じた。

 ただ、政治家よりも中央政府の公務員の方が性格的に合っていたのではないか。

 今回は朱主席との不一致、王立法院長との不和があらためて浮かび上がったが、振り返ってみると、馬総統は李登輝元総統をはじめ、連戦元副総統(国民党名誉主席)、宋楚瑜親民党主席(元国民党秘書長)、陳水扁前総統ら、ここ20年の台湾政界の重要人物との関係は「不和」ばかりなのだ。「友達のいない総統」との評価も有名だが、政治の目的が多数者の幸福追求である以上、他者との協調や、一定の信頼関係を築くことが苦手であれば、それだけで政治家としての適性を欠いているといえる。


朱主席は馬総統の声明を無視して自身の判断を貫いた(中央社)

 政策アイディアに乏しいことも欠点で、例えば、馬政権への大きな批判材料となってきた住宅価格高騰問題では、十分な成果を挙げられないまま任期満了を迎えることになりそうだ。賃貸専門の社会住宅を従来の5倍に拡大する方針を表明したのはヒマワリ学生運動が終わった後の昨年5月になってからで、供給が最大となるのは馬総統退任後の17年のことだという。8年間務めた台北市長時代も、独自の施策と言えば、行政区ごとに市営スポーツセンターを設置したことぐらいしか思い出せない。

 突発的事態への対応力が弱いことも、台北市を水浸しにした01年の台風16号(ナーリー)や、台湾全土で700人の死者・行方不明者を出した09年の台風8号(モーラコット)の際に証明済みだ。

対中政策も薄い独自色

 馬総統の最大の政績は中台間の経済開放推進だが、独自のアイディアにのっとったものはほとんど見られず、海運・空運の直航にせよ、中国資本や観光客の受け入れ、海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)などにせよ、中国との協調路線を採る政治家であれば馬総統でなくても成し遂げられたのではないかとさえ思える。

 来年5月で終わりを迎える馬総統時代の8年は、中台間の経済関係が後戻りできない水準にまで深まったことで歴史に残るものの、馬総統の政治家として評価は低空飛行のまま推移し、退任後に懐かしむ声はほとんど聞かれないということになりそうだ。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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