第32回 国共トップ会談、「一つの中国」は従来の枠内


2015年5月8日15:52  ニュース

第32回 国共トップ会談、「一つの中国」は従来の枠内

記事番号:T00056845

 今週4日に行われた朱立倫国民党主席と、習近平中国共産党総書記(国家主席)による国共トップ会談「朱習会」は、朱主席個人と国民党にとってプラス要素の多いものとなった。昨年11月の統一地方選で惨敗して、来年の総統選挙での再度の政権交代が現実味をもってささやかれる中、党勢回復を使命に就任した朱主席にとって初の大舞台で、失敗は許されなかった。


朱主席(左)と習主席(右)は笑顔で握手し写真に収まった(中央社)

 その中で「1992年の共通認識(92共識)」の枠組みの下で今後も安定した中台関係が続くことを台湾住民に示し、台湾のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と「一帯一路(海と陸のシルクロード経済圏)」構想への参画に習主席より歓迎発言を得た。習主席に対しては台湾の国際組織、国際活動への参加意欲に理解を求め、また、「100年前、孫文は帝制を打倒し、中華民国を創建した」と述べて、自然な形で「中華民国」の名称をアピールした。国民党主席が中国最高指導者の前で中華民国の名称を挙げたのは朱主席が初めてだ。

 馬英九総統が中国との距離を詰めようとして台湾世論の反発に見舞われたように、国民党にとって中国との関係は諸刃の剣だ。しかし、朱主席は「親中批判を恐れない」と宣言して北京に赴き、結果を出したと言える。

 習主席は「一帯一路」商機を台湾に優先的に開放すると触れた際に、「(中国側は)器が大きくあるべきだ」と発言した。「一つの中国」の前提が守られるのであれば、長期的視点で台湾に恩恵を施していく方針に変更がないことを示したが、民進党に呼び掛ける意図も透けて見えた。

「一つの中国に属する」に批判

 今回、朱主席の発言で議論を呼んだのが、「両岸は一つの中国に属する」との表現だ。92共識を説明する際に「両岸は一つの中国に属するが、含意と定義はやや異なる」と発言したものを、親民進党系メディアが「両岸は一つの中国に属する」の部分のみを取り上げて「北京の『一つの中国の枠組み』に近づいた」と批判したものだ。

 しかし発言には「含意と定義はやや異なる」との言葉が続いており、実際には「一つの中国、それぞれの解釈」の国民党による従来解釈とほぼ同じ範囲と言える。朱主席も帰台後、「『一つの中国に属する』の中国は、当然中華民国のことだ」と発言した。傾中批判を意識せざるを得ない国民党にとって、今の時期に統一色の強い新解釈を打ち出してリスクを犯す必要はない。

 それでも「属する」という言葉の響きには、より中国側の主張に近付いた印象がぬぐえない。6日付自由時報によると馬総統は13年3月、「大陸(中国)側は台湾との間で『両岸は一つの中国に属する』と称したいと考えているが、台湾では敏感な表現だ」と述べて拒否の意向を示すなど、これまで受け入れてこなかった経緯がある。

 そうした中で朱主席が「一つの中国に属する」の表現を使ったのは、初対面の習主席に対し、信頼できるカウンターパートナーであることを示す意図があったと考えられる。習主席には朱主席が対話の相手足り得るか見定める意図があったはずで、その想定の下、「共通の価値観」をより踏み込んだ表現で語ったのではないだろうか。ただ、こうした歩みよりは、来年以降も国民党政権が続いた場合、将来的な統一に歩みを進める危険性が増すという独立派陣営の懸念に高めた側面もあるだろう。


朱主席は北京大学では学生たちとの座談会に臨んだ。同大で20年前に2カ月間客員教授を務めたことがあり、当時の知人らと旧交を温めた(中央社)

総統候補に期待感高まる

 朱主席は、言うべきことを過不足なく言い、背伸びすることも低姿勢になることもなく会談をこなしたと報じられている。朱主席が党主席にふさわしい力量を見せたことで、帰台後、党内では総統候補に推す声がさらに高まったようだ。

 朱主席は出馬しない意思を再三表明しているが、現状では誰が候補者となっても朱主席以上の求心力を発揮することは困難だろう。主席という立場で国民党の路線を最も明確に語れる以上、朱主席は出馬の判断をして、有権者に台湾が進むべき道を訴えるべきではないか。台湾の進路を決める総統選には、やはり主役級が出てこなければならない。その上で、蔡英文民進党主席との間で見応えのある議論が展開されることに期待したい。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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