ニュース 政治 作成日:2015年7月10日_記事番号:T00058037
ニュースに肉迫!7月の台湾は「抗日月間」だ。抗日戦争勝利70周年を記念して先週4日、戦争に参加した外省人老兵134人を招いて湖口陸軍基地(新竹県)で大掛かりな軍事パレードが行われた。戦争の発端となった盧溝橋事件から78周年を迎えた7日には、26枚の大型油絵で戦争の経過をたどる「対日抗戦真相特展」が中正紀念堂で始まった。抗戦勝利70周年の記念コインや切手が発売されたり、関連の学術フォーラム、座談会、音楽会などのイベントも目白押しだ。
老兵たちは日中戦争当時の軍服で参加した(中央社)
戦闘機に「日の丸」
軍事パレードの直前には、パレードに使用する空軍機に日中戦争当時の塗装が施され、撃墜した日本軍機と同じ数の「日の丸」が描かれたものの、日本側の懸念を受けて塗りつぶされる出来事もあった。一連の動きから、日本の大手メディアが「馬英九政権は反日にかじを切ったのか」と報じたのもうなずける。
ただ、これら数々のイベントは、実際は中国、および台湾内部に向けたものと解釈すべきだ。中正紀念堂の展示会の名称が「真相特展」とされているのは、中国メディアが最近、抗日戦争で土台の役割を果たしたのは共産党だと主張し始めたことに対し、「中華民国の国民党政府が主導したことこそが真実だ」と反論するのが目的なのだ。
中正記念堂は「真相」の2文字を赤い字でクローズアップした。中国人観光客に最も訪れてほしいという(YSN)
また、中国は9月3日に外国首脳も交えて大規模な軍事パレードを実施する。台湾はもともとパレードを計画していなかったが、何もしなければ抗日戦争の解釈で中国側の発言力が強まる恐れがあるため、馬総統が実施を指示したのだ。中国は台湾の老兵たちに北京でのパレード参加を呼び掛けており、もし実現すれば宣伝に利用されることは明白だ。馬総統は「真相展」の開幕式で、「共産党軍の抗日戦争への参加は非常に限られていた。この事実に誠実に向き合わねばならない」と中国による歴史歪曲(わいきょく)にくぎを刺した。
異なる歴史認識
「反日」懸念に対し、馬総統が「私は親日派でも反日派でもない『友日派』だ」と表明する一幕もあった。日本人は親日的な台湾で相次いで抗日イベントが行われることに違和感を抱くが、これは中華民国国民党政府と台湾社会との歴史認識の違いによって生じるものといえるだろう。
中華民国政府にとって、軍民合わせて1,000万人以上といわれる死者を出した抗日戦争の勝利を記念するのは当然のことだ。戦勝国としての正当性を持つことを国際社会や中国にアピールすることも、犠牲となった先人たちに敬意を表することにも意義がある。老兵たちのような対日感情を持つグループは今の台湾では少数派だが、彼らは祖国防衛に努め、日本の大陸進出の結果、故郷を離れて不本意にも後半生を台湾で過ごさざるを得なくなった人々だ。このような老兵の功績を称えるのは国家として当然で、そこには反日感情など介在する余地はないのではないか。
称賛と忘却と
一方、台湾は日本の一部として敗戦を迎えた。日本統治時代を経験した本省人やその子ども、孫にとって、抗日イベントは何ら共感できるものではない。日本国民だった台湾人は、多くが日本軍の戦局に一喜一憂したり、兵士や軍属として戦地に赴いた。そして敗戦を迎え、戦後の228事件や白色テロを通じて抗日戦争に勝利した国民党政府に反感を抱くようになった。筆者は以前、台湾人の友人から「日本が戦争に負けなければ台湾は日本のままでいられたのに」と言われたことがある。こうした思いを抱いている年配者は意外に多いのではないだろうか。
台湾人日本兵は約3万人が戦争で犠牲になっている。彼らの子孫や、日本国民として当時を生きた台湾人にとっては、こうした犠牲者の鎮魂を祈る方が戦後70年の行事としてはしっくりくるだろう。だが、敵であった日本兵を記念するイベントは中華民国体制では不可能で、そうした民間の動きも全くない。
戦後70年の抗日月間は、戦った兵士が称えられる中華民国と、忘れ去られる台湾との距離を浮き彫りにしている。台湾で暮らす一日本人としては、今夏は歴史の波に埋もれそうな台湾人日本兵に心の中で手を合わせたい。
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