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第37回 「ドン・キホーテ」宋楚瑜氏、三たび総統選に立つ


ニュース 政治 作成日:2015年8月7日_記事番号:T00058572

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第37回 「ドン・キホーテ」宋楚瑜氏、三たび総統選に立つ

 宋楚瑜親民党主席が6日、来年1月の総統選への立候補を正式表明した。総統選への立候補は、2000年、12年に続いて3回目で、国民党の連戦主席(当時)とペアを組んで副総統候補として臨んだ04年を含めると実に4回目だ。今回も当選見込みはないものの、飽くなき挑戦を続けるその姿は、一部の台湾メディアから「ドン・キホーテ」と呼ばれている。


立候補を力強く宣言する宋楚瑜氏(6日=中央社)

 それでも、今回は前回12年よりも注目されている。国民党公認候補に決まった洪秀柱同党副主席に魅力が乏しいためで、国民党支持層に食い込んで勢力を伸ばすのではないかとみられている。

見果てぬ総統の夢

 宋氏は湖南省出身の外省人で73歳。1980年代末に国民党秘書長に就任、若手リーダーとして活躍し、台湾省長時代(94〜98)には管轄自治体の建設事業に力を入れ、田舎の隅々まで歩いて庶民を励ますスタイルで人気を不動のものとした。しかし、李登輝元総統との反目から2000年総統選の国民党公認候補には選ばれなかった。このため離党して無所属で立候補したが、国民党によって資金スキャンダルを暴露され、イメージ低下が致命傷となって民進党の陳水扁氏に敗れ落選した。

 それでも、国民党候補の連戦氏に大差を付けた余勢を駆って親民党を結成。国民党から多くの立法委員が鞍替えし、01年立法委員選挙では定数225議席中、46議席を獲得した。

 04年総統選では、前述のように連氏とのペアで立候補した。選挙戦は優勢で、連氏は1期だけ総統を務め、08年は宋氏が総統候補として立候補するとのうわさが流れた。しかし、陳総統が投票日前日に起きた銃撃事件で同情票を集めた結果、3万票に満たない僅差でまたも敗れた。

 その後、08年の立法委員選挙制度が小選挙区比例代表並立制に変更されて大政党に有利になったことから、今度は親民党から国民党への出戻りが相次いで宋氏は急速に政治的地位を失った。06年の台北市長選に出馬したものの得票率4.1%で惨敗。12年総統選も得票率2.7%で惨敗し、親民党も議席3席の小政党に転落した。

 宋氏は能力と人気はありながら、あと一歩のところで総統になれなかった不運な政治家だ。働き盛りの56歳で台湾省長を退任して以来、一度も公職には就いておらず、不完全燃焼のキャリアへの無念さが、齢70を超えてまたしても総統選に挑戦する原動力となっているのではないか。

世論調査は好結果

 12年総統選の際、宋氏が立候補の際に集めた推薦署名は35万5,589人分、得票数は36万9,588票で、台湾全土の宋氏のコアな支持層はこの程度であることが明確になった。にもかかわらず今回世論調査での人気は高い。国民党寄りの聯合報が6日に行った支持率調査では、蔡英文民進党主席が36%でリードしており、宋氏が24%で2位、国民党公認候補の洪秀柱氏が17%で、宋氏が洪氏を7ポイント上回った。

票の上積みが必須

 来年の総統選では、国民党支持層と中間層に、洪氏に投票せず、棄権または宋氏に投票する有権者が一定程度出そうだ。宋氏はこの層を取り込み、どれだけ票を上積みできるかが出馬の成否を決める。 

 宋氏は今回の出馬で、同時に行われる立法委員選挙で親民党比例区候補の得票を伸ばすことはもちろんだが、国民党を厳しい敗北に追い込むことに最大の意義があると考えているのではないか。

 国民党が総統選で観測通り敗れれば、朱立倫主席は引責辞任となるか、そうならなくても指導力を失う。次のリーダーとしては王金平副主席(立法院長)と呉敦義第一副主席(副総統)くらいしか見当たらない。その際、宋氏が仮に洪氏と互角の票を獲得していたら、泛藍(汎国民党陣営)内で有力指導者としての地位を回復させられるだろう。

 民進党が政権に返り咲き、かつ同党が立法院で過半数を獲得できない状況となれば、キャスティングボードを握ることも期待できる。宋氏は05年2月、前年末の立法委員選挙で過半数獲得に失敗した与党民進党と、政策協力を行うことで合意した実績がある。権力と利益のためには主義主張が正反対の相手とも手を組むことも可能だ。

斬新さが課題に

 宋氏がどれだけ票を伸ばせるかは、洪氏の人気がどの程度低落するかが重要な要素となる。洪氏に当選の見込みがまるでないとなると、宋氏への期待度がより高まり、票を集中させようという動きが出ても不思議ではない。

 宋氏にとっては、有権者を引き付ける斬新さを見せられるかが得票を伸ばす上での鍵だ。台湾省長としての活躍はもう昔話で、本来は「過去の人」なのだ。今回は「青(国民党)と緑(民進党)の対立からの脱却」を打ち出して第三極を志向する姿勢を示し、昨年の柯文哲ブームの余韻を期待しているように見える。しかし、地方選挙と総統選は論点が異なり、これまで総統選で第三極を打ち出して得票に結び付けた候補者はいない。

 宋氏も中台は一体と考える思想のため、若者票を多く獲得できるとは考え難い。さまざまな条件から見ると、国民党支持層を一定程度取り込めるかもしれないが、旋風といえるほどの風は吹かないのではないか。宋氏にとっては、選挙後に発言力を高めることのできる水準の票を獲得できれば、すなわち勝利と言えるだろう。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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