ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第40回 安保関連法案成立、歓迎する台湾世論


ニュース 政治 作成日:2015年9月25日_記事番号:T00059510

ニュースに肉迫!

第40回 安保関連法案成立、歓迎する台湾世論

 先週19日、日本の参議院で安全保障関連法案が可決・成立した。これにより「密接な関係にある他国」が武力攻撃を受けた際に、日本が共同で対処することを可能にする、集団的自衛権の行使が容認されることとなった。日本政府は「密接な関係にある他国」には、外交関係を持たない国も含まれ得ると表明しており、台湾も対象に入ることを示唆したと受け止められている。

 安保関連法案の成立は台湾にとって、「台湾海峡有事の際の日米共同作戦」に道が開かれる大きな意義を持つものとなった。外交部は「地域の平和と安定の基礎である日米安保体制を強化するものだ。日本が国際社会でその責任を尽くすことを期待する」と歓迎の意を表明した。

 台湾世論には従来から日本の集団的自衛権の実現に期待感があった。独立派のシンクタンク、新台湾国策智庫(台湾ブレイントラスト、TBT)が昨年8月に発表した世論調査では、「日本が集団的自衛権に基いて台湾防衛のために自衛隊を派遣すること」への賛成は54.9%に上っていた。

 陳水扁政権時代に駐日代表を務めた許世楷氏は、「台湾が中国による併合に対抗するためには、米日と共にあらねばならないため有利になった」と、メリットを一言でまとめた。独立派の方がより好意的だが、台湾では集団的自衛権に対し、党派を問わず基本的に賛成していると言ってよい。

洪秀柱氏が批判声明

 そうした中、異彩を放ったのが国民党から総統選挙に立候補する洪秀柱同党副主席(立法院副院長)だ。洪氏は「いまだ歴史を反省せず謝罪もしない国が、『戦争法』と自国民から批判される安保関連法案を成立させたことは遺憾だ」と声明を出した。さらに「周辺国の疑念を引き起こす以上、日本は法案を再検討すべきだ。釣魚台(尖閣諸島の台湾名)も南シナ海も中華民国が主権を有しており、日本が自衛権の拡大解釈を試みる際は中華民国の基本的立場を尊重するよう求めたい」と続けた。


洪氏にとっては中国の対外拡張への対応よりも、日本軍国主義の復活防止の方が重要なようだ(中央社)

 洪氏の発言はまさに中国政府の立場と一致する。一体、日本が台湾に戦争を仕掛けるとでもいうのだろうか。中国の覇権主義は東南アジアや日本はもちろん、中華民国の自由民主主義にとっても脅威だが、そうした視点が全く欠落している。声明は洪氏が台湾の総統になるのは不可能なことを証明したが、既に総統選で落選確実と考えられているため、あまり話題にもならなかった。

学生運動に酷評

 台湾では、安保関連法案への反対運動を繰り広げた学生団体、SEALDs(シールズ)も注目された。リーダーの明治学院大生、奥田愛基氏(23)が、台湾の「ヒマワリ学生運動」や香港の「雨傘革命」に影響を受けたと語ったためだ。

 しかし、台湾のインターネットでの評価は、「奥田氏を(ヒマワリ運動の)林飛帆や陳為廷と同様のリーダーと思ってはならない。彼の理論は穴だらけだ」といったものだ。

 奥田氏は15日に参議院の公聴会に参考人として出席し、「不安や反対の声が広がり、説明不足が叫ばれる中での採決は、70年の不戦の誓いを裏切るものではないか」、「国民の理解を得られなかった以上、安保関連法案は廃案にするしかない」と主張した。これに対し、台湾最大の掲示板サイト、批踢踢(PTT)には、「日本に敵意を持つ周辺国が軍拡を進めていることに対する見解がない」、「国際的現実を無視して平和を叫ぶだけというのは平和主義とはいえず、土の中に頭をうずめるダチョウにすぎない」といった厳しい言葉が並んだ。


海外からは、平和主義の理想は理解できるが、ではどうやって国を守るのかという疑問が日本のいわゆる「平和勢力」に向けられている(中央社)

 安保は他人任せで、中国の覇権主義は一切批判しない日本の学生たちは、それに対して真剣な戦いを続ける台湾・香港の学生から影響を受けたなどと言う資格があるのか。彼らだけでなく、日本の在野勢力は今回地に足のついた安保議論ができず、戦後70年たった今も空想的平和主義から抜け出せていないことを示した。日々中国の脅威と向き合う台湾人からは、さぞかし気楽に見えるに違いない。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

ニュースに肉迫!