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第43回 史上初の中台首脳会談、機は熟していなかった


ニュース 政治 作成日:2015年11月11日_記事番号:T00060311

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第43回 史上初の中台首脳会談、機は熟していなかった

 先週7日、シンガポールで史上初の中台首脳会談が開かれた。かつての対立を乗り越えて実現した首脳会談は現代史に刻まれる出来事ではあったが、そうであればこそ真の意味で歴史的な価値を持つものであってほしかった。

 台湾側から見れば、会談は中台関係改善を進めてきた馬英九総統の退任前の記念イベントにすぎなかった。「1992年の共通認識(92共識)」が中台関係の基礎との確認は従来路線の延長で、中台間のホットライン開設では合意されたが、これさえ民進党に政権が交代すれば実現は不透明になる。それゆえ、トップ同士が初めて握手したことが最大の成果となった。

 そもそも、総統選挙まで残り2カ月という時期に、馬総統が台湾の将来に枠をはめる懸念もあった首脳会談に赴くことが妥当だったのか。国民党は昨年の統一地方選挙で、中国への過度の傾斜を懸念する世論を前に敗北しており、既にレームダックの指導者にとっては新たな民意に台湾の将来を委ねる選択こそが良識だろう。ところが、当初は直前3日前に公にする予定だったことからも、世間に議論をする時間を与えない意図があったことは明白だ。台湾では既に中台対話そのものへの反対は少なくなったが、この時期に開催される妥当性に関して民意がくまれることはなかった。


馬総統(左)と習主席は(右)による会談は、反台湾独立の中華ナショナリズムが基盤となった(中央社)

ミサイル問題で及び腰

 中国の軍事的脅威に関する習近平主席とのやり取りには、今回の会談の性格がよく出ていた。中国はどれだけ関係改善を進めても台湾への武力侵攻の選択肢を捨てていない。今年7月、中国軍が台湾の総統府に似た建物を使って攻略演習を行っていたことが明らかになり、台湾世論の反発を呼んだ。これと台湾に向けてミサイルを配置している問題と合わせて、馬総統は「野党が両岸(中台)関係を批判する口実になっている」と述べて習主席に「善意ある具体的措置」を求めた。習主席はこれに対し「ミサイルは台湾に向けたものではない」と語ったという。

 しかし、台湾の安全保障に最大の責任を持つ総統であれば、「台湾人民の懸念を晴らすべく撤去してほしい」と堂々と提案するのが筋で、習主席の回答もうのみにしてはならなかったはずだ。このことから、円満な雰囲気を壊すような、厳しい交渉をするつもりは最初からなかったことが分かる。この部分は台湾人を大いに失望させたのではないか。馬政権は、会談では習主席の前で初めて中華民国の国号に言及して尊厳を守ったと強調したが、安保問題でこうも腰砕けでは説得力はない。

蔡主席の支持率上昇

 首脳会談は、馬総統と習主席が「一つの中国、台湾独立反対」で一致したことを印象付けた。しかし、これでは「最終的な統一」を強調した洪秀柱副主席を総統候補から降ろして、「92共識、一つの中国、それぞれの解釈」にテーゼを戻した朱立倫国民党主席が浮かばれない。国民党の選挙情勢にはむしろ不利になったとみられる。

 大手ケーブルテレビ局、TVBSのアンケート調査によると、馬総統の首脳会談での言動に「満足」は37%、「不満足」は36%で評価は真っ二つに割れた。国民党寄りの同局でこの数字だから、実際は「不満足」の方が多いのではないか。一方、蔡英文民進党主席の総統選の支持率は、両岸政策協会(CSPA)によると48.6%へと前月から3.4ポイント上昇、民進党寄りの三立電視(SET)によると46.7%へと5.1ポイント上昇した。国民党政権が続いた場合、中国に取り込まれるとの懸念が強まったことは疑いない。

 機が熟していなかった中台首脳会談は、選挙戦術としても失敗だったが、馬総統は歴史に名前を残すべく強行した。李登輝元総統は9月に「中国との間で何をするか分からない」と退任前の馬総統の行動を警戒していたが、その通りの動きとなった。馬総統はこの首脳会談を中台関係における最後の仕事にし、残り半年間は民意を見守ることに専念するのが台湾住民にとって最も有益だろう。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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