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第48回 人災大国・台湾


ニュース 社会 作成日:2016年2月19日_記事番号:T00062060

ニュースに肉迫!

第48回 人災大国・台湾

 春節(旧正月)連休に入ったばかりの6日未明に台湾南部を襲ったマグニチュード(M)6.4の地震では19日までに117人の方が亡くなった。ここに謹んでご冥福をお祈りしたい。

 犠牲者のうち115人が台南市永康区の地上16階建て、築21年余りの維冠金龍大楼の倒壊によるもので、今回の人命損失は、震度5の揺れに耐えられなかったマンションの手抜き工事が原因だ。

 現場の報道写真には、コンクリートが詰まっているはずの支柱の中にサラダ油の一斗缶の列が詰められているのがはっきりと写っていた。柱のせん断破壊に抵抗する帯筋の折り曲げ角度が不十分だったり、あばら筋の使用量が構造計算書の半分だったりしたことも報じられている。これは明らかに人災がもたらした悲劇だ。


維冠大楼の倒壊事故では「一家6人で22歳の次女だけが生き残る」「21歳の大学生のカップルの抱き合ったままの遺体が見つかる」など、多くの悲報が伝えられた(中央社)

 日々台湾のニュースを読んでいると、人災が原因で多数の人が犠牲になる事故に接することがあまりに多く、そのたびに暗たんとした気持ちになる。最近でも15人の若者が亡くなった八仙水上楽園の粉じん爆発事故、復興航空(トランスアジア航空)の澎湖と基隆河での2回にわたる墜落事故、台中市の新交通システム(MRT)工事現場での橋桁落下事故(通行車両の運転手ら4人が死亡)などが思い出される。これらは全て、企業や現場の担当者が当然の注意を払っていれば起きずに済んだものだ。「いいかげんさが大惨事を生む国」としては、一昨年のセウォル号沈没事件や、かつて漢江の聖水(ソンス)大橋崩落事故や三豊(サムプン)百貨店崩落事故が起きた韓国が真っ先に思い浮かぶが、台湾もそれに匹敵する人災大国といえよう。

惨事を招くおおらかさ

 われわれ日本人が台湾に感じる魅力の一つに、細かいことを気にしない社会のおおらかさな雰囲気がある。ただおおらかさはいいかげんさと同意語で、特に問題なのは、多数の人命にかかわる判断が十分な注意なくして行われることだ。澎湖での復興機墜落事故は台風が去った当日に起きており、依然悪天候だった中でのフライトへの妥当性が問われた上、滑走路を視認できない中での強行着陸が原因だった。安全を最も重視しなければならない航空会社としては、決して起こしてはならない事故だったのだ。八仙楽園爆発事故でも、カラーパウダーが高温のライトで着火する可能性が留意されていなかった。台湾はこうした面においては先進国の水準に達しておらず、「いいかげんな国民性を改善しよう」という世論が一向に巻き起こらないのは残念で、不思議ですらある。

真剣に改善を

 この問題は国民性に根ざしているため、根本的な改善はなかなか難しい。ただ、何か事故が起きるたびに法律や規則の改正によって再発防止を図る姿勢は示されており、その積み重ねがやがて効果を生むことを期待したい。今回も蔡英文次期総統が、建築物の耐震能力評価と補強に関する法律が改正された1997年5月以前の建築物を対象に、全面点検を施す方針を打ち出した。地震による建物被害は台南市南部に集中しており、土壌液状化に関する調査の早急な実施と公表も待たれる。

 この春節連休中、筆者は航空機のトランジットで上海市内に数時間立ち寄り、その際目にした市民の民度の低さを台湾の友人に話したところ、「台湾も昔はひどかった。時間がかかる。ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて改善していくしかないんだ」という返事が返ってきた。確かにそのとおりで、台湾の交通状況も、環境・衛生も、公衆マナーも、長い時間をかけて大きく改善されたことは事実なのだ。人災要因による死亡事故を減少させることこそ、台湾が今真剣に取り組むべき課題であろう。それができてこそ、先進国の名に恥じない社会と言えるのではないだろうか。

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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