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第44回 軍人住宅で暴利?国民党、副総統候補の人選失敗


ニュース 政治 作成日:2015年11月27日_記事番号:T00060624

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第44回 軍人住宅で暴利?国民党、副総統候補の人選失敗

 自由時報が26日報じた総統選挙の支持率調査によると、朱立倫国民党主席の直近の支持率は13.87%で前月から5.04ポイント低下し、蔡英文民進党主席(47.86%)の背中がさらに遠のいた。洪秀柱副主席に代わって候補者となり、本来ならば追撃ムードが高まっていなければならない時期だが、ペアを組む副総統候補の人選失敗が響いているのだ。


王如玄氏は連日メディアの追及を受け、渋い表情だ(中央社)

 国民党は18日、2008年5月から12年9月まで行政院労工委員会(現労働部)主任委員を務めた弁護士の王如玄氏を副総統候補に選んだ。しかし、その翌日から彼女の驚くべき不動産財テク手法が民進党の立法委員によって次々と暴露されて、昨日26日に至るまで延々と釈明に追われている。

 王氏は90年代、06年と07年、および労委会主任委員就任後の09年に、台北市と新北市で軍人・軍属向けの住宅「軍宅」計5件を買っていたことが明らかにされた。これらはすべて、戦後の外省人の集住地域「眷村」を取り壊して再建した集合住宅の物件で、もともとは眷村に住んでいた軍人や軍属の居住用として低価格で供給されたものだ。最初の所有者には、5年間転売できない規制がある。

規制逃れで名義借りか

 王氏は90年代に買った物件を売却して740万台湾元の利益を得た一方、06年に新北市板橋区の「健華新城」を購入して賃貸に回していた。「5年間規制」をかいくぐるために当初は別の人物の名前を借り、12年に王氏の夫に名義を変更したとされ、この間の家賃収入の税申告を適正に行っていたのか疑いが持たれている。さらに、台北市信義区の一等地にある軍宅、世貿新城の購入・売却では暴利を得たとのうわさも持ち上がり、26日は台湾メディアがこの件を5度にわたって追及したが、王氏がいずれも回答を避けたため、疑いの目がより強まった。

 王氏はこれらの物件を持ちつつも、自身は司法院政風処長を務める夫の、台北市中心部にある台湾高等法院検察署の月額賃料700元の官舎に住んでいることも分かり、できる限り早く官舎から出ると表明せざるを得なくなった。

 王氏は、不動産取引自体は違法ではなく、職権を利用したこともないと弁明している。しかし、貧しい軍人・軍属への配慮から、当初価格が低く設定された軍宅の取引は利益を出しやすいとされ、これを財テクの手段にしたことは、高官が国の制度を利用して私服を肥やしたとみられても仕方がない。王氏夫妻が共に軍とは全く関係ないにもかかわらず軍宅を次々と購入したこと自体、道義上問題があるとされている。

 ちなみに、王氏は在任中、政府機関で月給2万2,000元でのインターンシップを推進し、賃金が低過ぎるのではないかとの批判に反論して物議を呼んだことがある。今回の軍宅スキャンダル発覚で、「若者には低賃金を押し付けつつ、自身は財テクに熱中した元労働行政トップ」とのイメージが固まってしまった。


朱氏と王氏の立候補届け出に際し、料金自動収受システム(ETC)導入の際に解雇された高速道路の元料金徴収員らが、労働政策への抗議に訪れた(中央社)

交代もできず

 副総統候補には、総統候補に足りない属性を補って、より多くの有権者の支持を獲得する役割を期待されるケースが少なくない。例えば、総統候補が男性であれば副総統候補は女性、北部出身者であれば南部出身者、外省人であれば本省人といった具合だ。男性で北部出身の朱主席に対し、女性で中部出身の王氏を立て、女性や弱者のために活動してきた人権派弁護士としての経歴をアピールしたかったはずだが、その目論見は見事に外れてしまった。こうなると別の人物に交代させた方がよいのだろうが、既に25日に立候補の届け出を済ませてしまったためこのまま最後まで戦うしかない。

 一方、民進党の副総統候補の人選はメッセージが明確だった。女性で北部出身の蔡氏と組むのは、男性で南部出身の陳建仁・元行政院衛生署(現衛生福利部)署長で、03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が台湾を襲った際、鎮静化に手腕を振るった。バイオ産業にも明るく、蔡政権誕生の際には公衆衛生とバイオ産業の振興に力を入れるという意図が伝わった。

 総統選への対応で不手際続きの国民党は、終盤の副総統候補の人選に至っても民進党に完敗した。副総統候補によって選挙情勢を逆転させるのはもとより困難だが、朱主席への候補者交代からわずか1カ月間という時間的制約があったにせよ、マイナス効果をもたらすような人物はせめて避けるべきではなかったか。国民党は脇が甘かったとしか言いようがない。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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