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第39回  連戦・元副総統、裏切りの訪中


ニュース 政治 作成日:2015年9月4日_記事番号:T00059108

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第39回  連戦・元副総統、裏切りの訪中

 3日北京の天安門広場で行われた、中国政府による抗日戦争勝利70年記念の軍事パレードで、連戦・元副総統(79、元国民党主席)は最前列で人民解放軍を閲兵した。これほど高位にあった人物がいまだ台湾への侵攻の可能性を否定しない中国軍のパレードに参加したことは、台湾が中国の覇権主義を是認するという誤ったメッセージを国際社会に発信したに等しく、台湾にとって大きなマイナスとなった。連戦氏は国民党陣営から対中関係改善の功労者と評されていたが、今回の訪中で「売国奴」の烙印(らくいん)を押されたと言えるだろう。


パレード参観に臨んだ連戦氏(中央)。台湾メディアもほぼ批判一色だ(3日=中央社)

共産党の役割評価

 軍事パレードへの参加と共に問題視されたのは、抗日戦争は国民党と共産党の協力によって遂行されたという発言だ。連戦氏は1日の習近平中国国家主席との会談で「抗日戦争の期間、国民党軍は蒋介石委員長の指導で正面で戦い、共産党軍は毛沢東主席の指導で敵の背後で有効なけん制を行った」と述べ、共産党の役割を肯定的に語った。前日8月31日の兪正声・中国全国政治協商会議主席との会談でも「国共は共同で抗日に当たり、勝利して台湾を回復した」という見解を述べている。

 ところが、これは中華民国の歴史認識とは大きく異なる。抗日戦争は国民政府こそが指導して勝利に導いたが、共産党は戦力温存に主眼を置いたため、後の国共内戦で敗れて台湾に逃れたというのが国民党政権の公式史観だ。中国は近年、国際秩序形成における発言力を高めるべく、抗日戦争で共産党が要の役割を果たしたと喧伝(けんでん)しているが、国民党にとっては到底認められることではない。「国共協力による抗日」では国民党政権の「正統」としての名分が低下し、中台の力関係にも悪影響を及ぼすことが懸念されるためだ。総統府報道官は1日、「抗日戦争はすべて国民政府が指導したことが絶対的な史実だ」とくぎを刺した。

影響力低下で迎合へ

 連戦氏に対しては、民進党の地方幹部から内乱罪や外患罪で告発する動きも起きた。国共の関係を改善して馬英九時代の中台交流拡大に導いた功績は確かにあるが、中華民国の元指導者として守るべき一線を踏み越え、共産党への迎合に走ったからである。

 これには昨年、長男の連勝文氏が台北市長選で惨敗したことが影響していると考えられる。台湾政界で連家の影響力が低下すれば中国から重視されなくなるため、中国にすり寄ることで立場と利益を維持することにしたようだ。これは昔から台湾で落ち目になった人物に見られる行動パターンの一つで、まさに「台湾の悲哀」と言える。連戦氏の場合、元副総統であるだけに極めて罪深い。


連戦氏が帰台した桃園空港では、本土派の台湾団結聯盟(台聯)が「売国犯」と訴えるポスターを掲げて抗議した(3日=中央社)

「台湾抗日史観」で一致

 ところで連戦氏の今回の歴史に関する発言で、国民党が問題にしていない個所がある。「日本軍による占領期間、台湾同胞による抗日の動きは絶えることがなかった」というものだ。

 連戦氏のこの発言があった翌日、習主席は連戦氏との会談で「日本が台湾を占領した半世紀の間、台湾同胞の抗争は絶えることがなく、数十万人が命を落とした。台湾同胞が積極的に参加した抗日戦争に勝利したからこそ台湾は祖国の懐に帰ってきた」と発言しており、2人は「台湾同胞は抗日に尽力した」との認識で一致した。

 馬英九総統も2日台北で開かれた抗戦勝利70周年記念大会で、「日本が台湾を統治した時代、多くの先達が反植民地・反侵略に心血を注いだ。彼らが忠誠を誓った祖国は日本ではなかった」とほぼ同じトーンの発言をしている。

日本統治は直視せず

 この認識は、日本人としての自覚の下に日本国民として戦った者が多数いたことは一切無視する、明らかな歴史の歪曲だ。馬総統は先日も、李登輝元総統が「台湾と日本はかつて同じ国であり、台湾が日本と戦った事実はない。私も日本人として祖国のために戦った」との文章を日本の雑誌に寄稿したことに激怒し、謝罪を要求している。 

 中国共産党とは抗日戦争の認識で争う一方、日本による台湾統治への直視を避ける姿勢からは、国民党は歴史の扱いにおいて、住民の視点とは関係なく、中華イデオロギーに沿うか否かを重視していることが分かる。戦後70年の今、中台双方の政権が躍起になっているのは、結局はおのれの優位性を確保できる歴史解釈を定着させようという努力に他ならない。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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