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第36回 民進党、立法院過半数は実現できるか


ニュース 政治 作成日:2015年7月24日_記事番号:T00058317

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第36回 民進党、立法院過半数は実現できるか

 今週19日、国民党の総統選公認候補が洪秀柱同党副主席(立法院副院長)に正式に決まった。7年間多数与党として政権の座にありながら結局有力な候補者を選べなかったことは、今後同党に極めて大きな打撃をもたらすのではないか。政権を失うばかりではなく、党の方向性をめぐって路線闘争が起き、分裂に至っても不思議ではない。当面の選挙戦では宋楚瑜親民党主席が出馬する可能性が濃厚とみられているが、洪氏が魅力不足であるがゆえに、宋氏は得票を伸ばす余地が大きくなる。ただ、泛藍(汎国民党陣営)の動向については次回に稿を改めたい。

「慎重に楽観」

 蔡英文民進党主席の優勢は誰の目にも明らかだ。宋氏が立候補する前提で、大きな波乱がなく選挙戦が進行した場合、総統・立法委員選挙は、民進党が野党系の第三勢力も含めて立法院で過半数を獲得できるかが注目点になる。陳水扁政権時代の8年間、民進党は友党の台湾団結聯盟(台聯)を合わせても少数与党の状態が続き、政権運営は困難を極めた。立法院での過半数獲得は同党にとって悲願だ。


蔡英文民進党主席。22日のニュース番組で「寝ていても勝てるのでは」と問われた際には強く否定した(中央社)

 立法院は全113議席で、小選挙区比例代表並立制で議員を選ぶ。選挙区73議席、比例34議席、原住民枠6議席の内訳だ。過半数は57議席で、民進党は現有40議席(選挙区27議席、比例13議席)から上積みを狙う。

 過半数が可能か否か、同党は「慎重に楽観している」と現段階の見通しを説明した。昨年の統一地方選挙で台中市や桃園市などの首長ポストを押さえたたこと、若者層で民進党支持が拡大していること、前回の総統・立法委員選挙と異なり米国からマイナス評価を下されていないといった追い風要因があり、実際に50議席台は有望と考えられる。

 同党は濁水渓以南(注・雲林県以南)の選挙区で完勝し、前回完敗した桃園市で2議席を取るなど、選挙区で40議席、比例で17議席と、ちょうど57議席の獲得を目標にしている。

泛藍支持者の動向は

 民進党にとって不利な要素としては、まず制度そのものが挙げられる。人口が少なく国民党が圧倒的に強い金門県や連江県、台東県、花蓮県にも1議席が割り当てられ、同じく国民党が強い原住民枠も合わせて、7〜8議席は国民党側が取ることがあらかじめ決まっているも同然で、この制約の下で過半数を取るのはかなりの努力を要する。

 民進党が選挙区の議席をどの程度伸ばせるかは、選挙戦の展開と泛藍支持者の動向に左右される。洪氏の当選可能性が薄いと考えて投票所に足を運ぶ国民党支持者が減れば民進党に有利だ。ただ、立法院での民進党の多数を阻止しようというエネルギーが働く可能性も捨て切れない。

 前回12年の総統・立法委員選挙で台南市では、民進党の立法委員候補者5人の総得票数が、総統選に立候補した蔡英文氏の得票数を約9,000票上回った。これは蔡氏が総統になることに不安感を覚え、立法委員選挙では民進党候補に投票しつつも、総統選は棄権した同党支持者層があったことを意味する。このケースの泛藍版で、民進党が完全に政権を掌握することへの懸念から、中部以北の泛藍支持層が、手堅く泛藍候補者に投票する可能性も考えられるだろう。

第三勢力、比例議席は可能か

 民進党は今回、ヒマワリ学生運動など最近の社会運動の盛り上がりを受けて、主に民進党候補者が当選困難な11選挙区で、運動出身者などの野党系第三勢力のために候補者の擁立を見送った。注目候補者としては、一昨年に起きた陸軍下士虐待死事件の被害者の姉、洪慈庸氏(時代力量、台中市第3選挙区)らがいるが、いずれの選挙区でも前回は国民党候補が圧勝している。


ヒマワリ運動の経験者らが参加し、注目されている野党系の「時代力量」。若い世代の声を反映できるか(中央社)

 野党系政党には今年創設された時代力量のほか、台聯、社民党、独立急進派として組織される台湾独立行動党、環境運動の台湾緑党、労働運動の工党などがある。ただ、いずれも比例代表で議席獲得に必要な5%の得票を獲得する実力はないとみられている。それでも、これら勢力をすべて合わせた場合、比例で2議席の獲得が可能だとして、独立派団体が結集を呼び掛けている。民進党との距離によって立場に違いがあり、交渉進展の情報は伝えられていないが、分裂したままの場合、野党系第三勢力はほとんど議席を獲得できない恐れもある。

政権運営の困難さ低下

 民進党と第三勢力による下半数獲得は、可能性はあるものの、やはり大きな挑戦といえるだろう。それでも、国民党は総統選で敗北して下野した場合、誰が新たな指導者になるかを含めて混乱が予想され、馬英九主席(当時)のリーダーシップが固まっていた陳政権下での野党時代とはかなり異なる様相を呈すると考えられる。民進党は過半数を取れなかったとしても、以前よりも提携相手を探すことがより容易になり、政権運営の困難さは低下するのではないだろうか。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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