第31回 アパッチヘリ事件で露呈した平和ボケ


2015年4月17日15:57  ニュース

第31回 アパッチヘリ事件で露呈した平和ボケ

記事番号:T00056476

 4月前半の台湾は「アパッチヘリ見学事件」でもちきりだった。これは3月29日、陸軍航空特戦指揮部、第601旅団(桃園市龍潭区)に所属する労乃成中校(中佐)が、女性タレントの李蒨蓉(ジャネット・リー)さんら子供7人を含む知人20人以上を基地内に招き、攻撃用ヘリコプター「AH-64E」(通称アパッチ)2機を見学させていたもので、李さんがその模様を自身のフェイスブックに掲載したため瞬く間に世間に知れ渡ることとなった。


へリの前で片足を上げた李さんの敬礼ポーズは、知らない人はいないほど有名になった(フェイスブックより)

 労中校はアパッチヘリの優秀なパイロットだったが、一般人に武器を公開するのは軍事機密漏えいに当たる軍紀違反だ。当日は李さんらをコックピットに座らせたり、1個200万台湾元もするという専用ヘルメットをかぶらせたりもしていた。

軍紀違反が日常化

 こうした光景に疑問を感じた軍人もいて、当日の当番上校(大佐)に報告したが、上層部へは報告されず、李さんのフェイスブックによって波紋が広がり、軍はようやく事態の深刻さを認識するに至った。調べを進めた結果、アパッチヘリ見学には大手シンクタンク所属の日本人男性も混じっていたこと、2月にも知人ら10人に見学させていたこと、昨年のハロウィンパーティーの際、仮装に使うためアパッチ用ヘルメットを基地から持ち出していたことなども発覚した。さらには、旅団長を務める少将までも、2月に家族にアパッチヘリを見学させていたことも分かった。

 事態を受けて高広圻国防部長が謝罪会見を行うとともに、労中校に刑事罰を問うことを含め、計18人の軍官を処分することが決まった。事件は、本来厳しい規律が守られていなければならないはずの軍が、たるみ切っていることを明るみにしたのだった。

中国に情報筒抜け

 同事件がメディアを賑わせていた8日、軍の新たな不祥事が露見した。退役した元空軍軍官学校飛行訓練指揮部で上校副指揮官を務めた葛季賢容疑者、現職の同部中校副主任、楼文卿容疑者らが、中国のスパイになった元台湾軍将校に機密情報を流していた容疑で拘束されたのだった(翌日、各20万元で保釈)。

 2人は2009年から13年にかけて台湾で食事の接待を受けたり、東南アジアへの旅行に招待され、その際に情報を提供したと報じられている。元将校が中国のスパイだったとは知らなかったとの供述だが、普通は想像できそうなものだ。

 軍や政府高官による中国への内通事件が発覚したのは馬英九政権になってから9回目で、毎年起こるためもはや驚きはなくなった。この間、ミラージュ2000戦闘機やレーダー関連、人事、軍事政策など、さまざまな機密情報が中国側に筒抜けになったという。

セレブに反感

 アパッチヘリ事件も調達先の米国の信頼を失う点で問題だが、中国に機密情報が流れてしまうスパイ事件の方がはるかに影響が深刻だ。にもかかわらず、世間の関心はアパッチヘリ事件に集中し、タレントの李さんの過去の問題発言がほじくり返されたり、ヘリの前で撮ったポーズの真似が流行したりしている。


量販店の売り場にまで流行のポーズが登場した(フェイスブックより)

 アパッチヘリを見学したのは芸能人や高級温泉ホテルの経営者ファミリー、高級ブランドの元広報幹部などセレブと呼ばれる人々で、労中校自身も元陸軍少将副参謀長の父親を持つエリートパイロットだった。特権階級グループが軍紀をないがしろにして好き勝手に振る舞ったことに、一般市民の好奇心と嫉妬心が大いにかき立てられたのだった。

 軍の緊張感欠落と、アパッチヘリ事件への激しいバッシング、スパイ事件への無関心ぶりを見るにつけ、中国と軍事衝突するリスクを実感できない状況が長く続いたことが平和ボケを招いたと思わざるを得ない。馬英九総統は軍の対応ぶりに激怒したと伝えられるが、陸海空軍の総帥として、中国への機密情報流出事件の再発防止に強い決意で取り組むとともに、台湾住民の意識の緩みに警鐘を鳴らす必要があるだろう。

ワイズニュース編集長 吉川直矢  

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