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第29回 ヒマワリ学生運動と台湾アイデンティティー


ニュース 政治 作成日:2015年3月20日_記事番号:T00055982

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第29回 ヒマワリ学生運動と台湾アイデンティティー

 馬英九時代の分水嶺となったヒマワリ学生運動の発生から1年がたち、この間、台湾社会の雰囲気は明らかに変わった。それまでの中台関係の強化による経済発展というベクトルが弱まり、異議を唱える若者たちの存在が注視されるようになった。食品問題で大企業の不祥事が起きたことも重なって、中国市場で巨額の利益を上げる大企業に批判的な目が向けられるようになり、公平な社会的分配の在り方が重要課題として認識されるようになった。


ヒマワリ運動1周年集会では、引き続き馬政権への監視を強めるよう呼び掛けが行われた(YSN)

 政治面では統一地方選で国民党惨敗の引き金となり、馬総統をレームダックに追いやった。国民党寄りの聯合報の調査でも、運動が台湾社会にプラスの影響を与えたとの評価が47%、中台関係にプラスの影響を与えたとの評価が26%とマイナスの23%を上回っており、馬政権が進めてきた中台交流拡大路線、および世代間格差の是正が進まない社会の現状をいったん立ち止まって見直そうという機運が出たことが、肯定的に受け止められていることが分かる。

「中国化」への抵抗運動

 ヒマワリ運動はまた、若い世代の台湾アイデンティティーを固めることに、決定的な役割を果たしたのではないか。

 戦後初の政権交代が行われ、民進党の陳水扁総統が登場した2000年、台湾ではまだ「自身は台湾人でもあり、中国人でもある」と考える人が44.1%で最も多く、「自身は台湾人である」の36.9%を上回っていた(政治大学選挙研究中心、以下同)。しかし、陳政権下で「中国」「中華」の名称の企業・団体名などを「台湾」に変更する台湾正名運動をはじめ「脱中国化・台湾化」の動きが進んだことから、馬総統への再度の政権交代が行われた08年には「台湾人」が48.4%、「台湾人かつ中国人」が43.1%と比率が逆転するに至った。

 一方、馬総統は自身の中国アイデンティティーに基づき、「脱台湾化・中国化」へと歯車の逆回転に取り組んだ。陳政権下で「台湾郵政」になっていた郵便事業の名称を「中華郵政」に戻した他、教育現場で「台語(台湾語)」から「閩南語(福建省南部の方言の意)」の言い換えを進め、公文書での日本統治時代の呼称を「日治」から「日拠」へと侵略的色彩の強いものに変更し、歴史や地理の教科書で「中国」の表現をすべて「中国大陸」に改めることを決めた。

 中国との関係強化を図りつつこうした政策を推し進めたため、台湾は随分中国に歩み寄ったとの印象を持った人も一時は少なくなかったようだ。 

 ところが、陳政権の台湾化政策が社会に多大な影響を及ぼした一方、馬政権による「脱台湾化・中国化」政策は、結局まるで共感を生まなかった。馬政権時代を通じて「自身は台湾人」と考える人はほぼ一貫して増え続け、昨年は60.5%に達した。特に20代では7割が「自身は台湾人」と考えるようになった。

 ヒマワリ運動はこうした民意を下地に、社会の表層面で著しかった「中国化」への抵抗運動として起きた。そして、中台間の経済協定推進をストップさせ、国民党を惨敗に導いたのだから、台湾ナショナリズムが勝利したといえる。運動の参加者はもちろん、共感をもって見ていた若い世代全員が自身の台湾アイデンティティーを一層強く認識したことは疑いなく、台湾社会のエスニックアイデンティティー形成史上、一つの重要な出来事だったといってよいだろう。

運動は先鋭化か

 3月18日、立法院南側の済南路ではヒマワリ運動1周年を記念して、運動参加者らによる集会が開かれた。切迫した政治的イシューがあるわけではなかったため、集まったのも数百人程度で、大きく盛り上がることはなかった。

 集会で主催団体、経済民主連合の頼中強召集人は、ヒマワリ運動で中台サービス貿易協定にストップがかかった後、馬総統は代わりに自由経済モデル区を推進するなど、中台間の開放政策をひそかに進めようとしていると批判した。中台間の経済開放そのものを危険視していることがうかがえ、社会運動の常でより先鋭化する方向にあるようだ。

 台湾ナショナリズムがいったんは勝利したヒマワリ運動だが、では中国との経済交流はどう進めるべきなのか、また、公平な社会的分配はいかに実現していくのか。1年を経て運動が社会に提示した課題が整理できたところで、残り10カ月を切った総統選に向けて議論の展開を注意深く見守りたい。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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