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第25回 柯文哲氏、勝利の背景に世代交代


ニュース 政治 作成日:2014年12月19日_記事番号:T00054491

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第25回 柯文哲氏、勝利の背景に世代交代

 台北市では来週25日、先月の市長選挙で国民党の連勝文氏を24万票の大差で下した柯文哲氏が新市長に就任する。


柯文哲氏は、20代の若者の間で8割以上の支持を集めたという(中央社)

 柯氏は1959年生まれの55歳だ。出馬に当たり出版した『白色的力量』『改変成真』によると、台湾大学医学部に合格するまで常にトップの成績で、台大医学部でも外科部門で最も早く教職資格を取得した。台湾の膜型人工肺治療(ECMO)の第一人者であり、台湾大学医学院附設医院(台大医院)の集中治療室(ICU)の責任者を17年間にわたり務めてきた。重篤患者の治療に当たるICUでは、困難な手術を交えて対応が1週間に及ぶこともあり、強靱(きょうじん)な意志力が鍛えられたという。

 政治との関わりでは、94年の台北市長選挙で陳水扁氏の医学界後援会の幹部を務め、00年総統選では引き続き陳氏の台大医院後援会の召集人になるなど、民進党に近い立場を取ってきた。陳氏が総統退任後、汚職事件で服役し、健康状態が悪化してからは医療チームに加わり、仮釈放して外部で治療を受けさせるよう主張してきた。台北市長選への立候補は、陳氏への治療体験がきっかけの一つになったという説がある。

革命的な勝利

 地方自治体の首長選挙で無所属候補が当選した例は過去にもあったが、政界経験の全くない「素人」が勝ったのは初めてのことで、柯氏の勝利はその手法も含めて台湾の選挙史上で革命的な出来事と言える。

 勝因の大きな要素に、政党に加わらず無所属を貫いたことがある。国民党支持者の多い台北市では「緑色」では不利で、「青対緑」の枠組みから抜けることが重要との判断があった。これにより、連陣営が民進党に対して行うような、国家アイデンティティーや経済路線(いわゆる鎖国路線批判)に関する論戦を受け流すことができた。国家アイデンティティーについては「中華民国が譲れない一線だ」と発言、故蒋経国総統の清廉さを称賛するなど中道路線を明確にしたことで、国民党支持層の一部を取り込めたと思われる。

 有権者の世代交代が進んでいることも大きな要因だろう。台湾では99年まで「三民主義」が大学入試で必須の受験科目だった。一言で言えば孫文と蒋介石がいかに偉大な人物だったかを教え込む教科で、また、男性は兵役に行けば反共思想を注入された。台湾の40代以上の世代には、こうした教育によって無意識のうちに国民党思想を刷り込まれた人々が一定数存在する。

 一方、台湾化を推進した李登輝・陳水扁時代に育った世代はそうした思想から自由で、台湾アイデンティティーが強く、国民党の21世紀における正統派思想の持ち主とでも言うベき馬英九総統には極めて批判的だ。40代以下の世代、特に20代は従来のマスメディアよりも、インターネット上の情報を重宝している。柯氏はそうした「刷り込みのない世代」にネットで人物と政策を訴えて支持を広げることができた一方、連氏は特権階級の悪印象を最後まで払拭できず、ネットでやり玉に挙げられ続けて敗れたと言えるのではないか。今回は子供に頼まれて柯氏に投票したという親も多かったようだ。

 柯氏の勝利は、候補者が往来で握手したり大型集会で陣営を盛り上げる親の世代の選挙手法に、ディスプレイとキーボードが打ち勝ったという意味でも革命的だ。柯氏の当選を演出したのは選挙集会に足を運ばない若者たちであり、このことは今後の台湾の選挙文化に多大な影響を与えると思われる。

手腕に集まる注目

 柯氏は当選後、自身は今後も政党に加入せず、幹部も政治活動に従事させず市民のための仕事に徹すると表明し、好感をもって受け止められた。自身を「酷吏」「SOP(標準作業手順書)の偏執狂」と呼んでおり、部下に厳しくしつつ仕事に当たるとの姿勢も示した。

 政見には5万戸の社会住宅供給をはじめ、「予算のうち100億台湾元の運用を市民の公開の提案に基づいて決める」「各局処の会議記録はすべてインターネットで公開する」など目を引くものが多い。85万票の民意をバックに市政の革新に成功するのか、公開・透明の方針と細かな利害調整のバランスが課題になるのか、今、台湾中がその手腕に注目していると言っても過言ではない。

ワイズニュース編集長 吉川直矢


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