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第26回 朱立倫新主席は国民党を再生させられるか


ニュース 政治 作成日:2015年1月23日_記事番号:T00055076

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第26回 朱立倫新主席は国民党を再生させられるか

 台湾政界では柯文哲・新台北市長の一挙手一投足が注目を集める中、与党国民党は21日、朱立倫新主席の就任後初の中央常務委員会を開いた。


朱主席は、新北市長や行政院副院長を務めたが、これまでで最も経歴の浅い国民党主席でもある(中央社)

 朱主席は馬英九総統より11歳年下の53歳。元軍人の国民党員で、桃園県議や国民大会代表を務めた外省人の父親と、桃園・大渓の名門、高家の母親との間に1961年桃園県で生まれた。妻の父、高育仁氏はかつて台南県長や台湾省議会議長を歴任した有力者で、朱主席の政界での成長を支えてきた。こうした家庭環境もあって、朱主席は小学校低学年のときには「将来は政治家になりたい」と周囲に語っている。また、育った環境で主に使っていた言葉は台湾語だ。

不信感後退に有利

 朱主席に課せられた課題は、評価の落ちた国民党の党勢を回復させ、来年の総統選で政権維持を図ることだ。馬総統が統一地方選の惨敗を招き、主席辞任に至ったのは、その対中傾斜が台湾社会の不安感をかき立てたためで、生来の大中華思想が拒否に遭ったと言える。この点で、朱主席が取り得る対中関係の方向性は、実務関係を重視しつつ一定の距離を置くというもの以外にあり得ない。朱主席は、習近平・中国国家主席から寄せられた祝電への返電で、「1992年の共通認識」には触れつつも「両岸は共に中華民族に属するが、異なる点を尊重しつつ、互いの心理的距離を近付けるよう努力すべきだ」と述べており、既にそうしたスタンスがうかがえる。

 朱主席は台湾独立には明確に反対で、党主席選出馬に当たって「(孫文の)建党精神を取り戻す」と語るなど、生粋の国民党員ではある。しかし、台湾の地方で台湾語を使って成長を遂げてきたその経歴は、香港生まれで台北の外省人エリート家庭で育った馬総統とは大きく異なっており、中国人アイデンティティーは馬総統よりも確実に薄いとみられる。馬総統がかつて語った「国民党の最終目標は統一(05年米ニューズウィークのインタビュー)」「台湾の将来は両岸人民で決めるべき(06年香港・星島日報インタビュー)」といった発言は、朱主席からは聞いたことがない。こうした人物であることは、国民党への不信感を後退させる上では有利だ。朱主席が総統選に出馬して勝ったとしても、中国に対し一歩引いたスタンスを保ち続けることが予想される。

権威的体質は重荷

 朱主席は与党のトップになったものの、行政のリーダーは依然馬総統だ。声望が落ちたとはいえ馬総統は最高指導者であり、尊重する姿勢を崩すわけにはいかない。主席として最初に手腕が問われるのは来月に迫った立法委員の補欠選挙だが、昨年の統一地方選から時間がたっておらず、引き続き国民党に厳しい風が吹くと思われる。朱主席が独自のカラーを出していけるのは、総統選の公認候補に決定するころで、いましばらくの時間が必要だろう。

 ところで、朱主席は就任演説で、統一地方選惨敗の反省から「人民と共にあらねばならない」「若者たちの声を聞かねばならない」と国民党も今の時代に合うよう変わらねばならないと力説していたが、なかなかの難題に思える。国民党がかつて権威主義でなかったことがあっただろうか。元来、中国革命の前衛党としてソ連共産党をモデルに組織を作った歴史があり、「人民を指導する」体質なのだ。馬総統自身にも権威主義的な色彩は強い。 

 さらには、国民党が抱える最大の課題は、まさに朱主席自身が語るとおり、若い世代の共感を得られないことだ。中台関係をより安定させられるのは国民党であり、その訴求力は大きいが、台湾アイデンティティーを強める若い世代が国民党の中核思想に親近感を持つことは厳しく、この傾向は世代交代が進むにつれてさらに顕著になっていくものと思われる。

 総統選を視野に入れつつ、朱主席は党改革をどのように実現していくのか。国民党にとっては当面の党勢はもちろん、将来像にかかわる重要課題であるだけに、その手腕が注目される。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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