ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第30回 リー・クアンユー元首相死去、台湾に与えた影響とは


ニュース 政治 作成日:2015年3月27日_記事番号:T00056130

ニュースに肉迫!

第30回 リー・クアンユー元首相死去、台湾に与えた影響とは

 シンガポールのリー・クアンユー元首相が23日死去した。オバマ米大統領をはじめ日本、中国、ロシア、西欧諸国、東南アジアなど世界中の指導者から哀悼の意が寄せられ、貧しい小国だったシンガポールをアジアで指折りの経済大国に押し上げた手腕に対する国際社会の極めて高い評価が示された。


リー・クアンユー氏は20世紀のアジアを代表する偉大な政治家として評価されている(中央社)

 リー氏は台湾に計25回訪れ、蒋介石元総統から馬英九総統まで全ての指導者と面識を持った。台湾と国交があった当時の1974年、蒋介石総統にシンガポール軍の軍事訓練を台湾で行わせてほしいと要請して実現、90年の断交をはさんで現在に至るまでも「星光計画」の名称で続いている。リー氏以上に長期間台湾と関わった外国指導者は他におらず、馬総統が死去翌日の24日に同国を訪問して弔意を示したのも、これまでの交流の深さからして当然のことであったといえよう。

 台湾とシンガポールは共に華人中心の「小さな島国」で、開発独裁を経て経済発展を遂げた旧アジアNIESという共通点があり、シンガポールの経済や社会の在り方は常に台湾にとって一つのモデル指標となってきた。

発展続ける都市国家

 台湾から近隣のアジア諸国に赴くと、「台湾よりも発展のスピードが速いのではないか」と感じることが多い。シンガポールもまさにそうした国の一つで、筆者は今年の春節(旧正月)連休に10年ぶりに同国を訪れたが、マリーナベイ地区の高層ビルの摩天楼や、屋上の大型プールで有名な高級ホテルのマリーナ・ベイサンズ、MRT(都市交通システム)路線網の拡大、セントーサ島の観光施設の充実ぶりなど、大きく様変わりしたことに驚いた。

 地場のDBS銀行、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)をはじめ、世界の金融大手の高層ビルが立ち並ぶ光景はまさにシンガポールの繁栄の象徴で、「台湾にこうした金融センターとしての発展はあり得なかったのか」との考えが一瞬頭に浮かんだが、すぐに打ち消さざるを得なかった。


シンガポールの象徴、マー・ライオンの後方に立ち並ぶ金融ビル群(YSN)

市場開放を追求

 シンガポールを成功に導いた重要な要素の一つがその市場開放政策だ。金融分野では早くから外国企業を積極的に誘致、各種規制の緩和・撤廃を随時進めた結果、13年には外国為替市場の取引高が初めて日本を抜いてアジア最大となっている。

 海外からの人材誘致もホワイトカラー、ブルーカラーを問わず推し進め、今や人口540万人のうち外来人口は約4割に上る。競争力を維持するため30年をめどに人口を690万人に拡大する計画で、その時点で外来人口が半分を上回ると予測されている。

 台湾は同じ「小さな島国」であっても、シンガポールと同じ道は決して歩むことはできない。遠い赤道直下の東南アジアと、統一の目標となっている沿岸部の島では、中国が及ぼす影響に決定的な違いがあるためだ。台湾がシンガポール並みに金融市場や人材市場の自由化を進めた場合、たちまち中国から大量の資金と人が流入し、その影響下に置かれることになるだろう。自由貿易時代を迎えて国境の垣根が低くなっても、台湾は自由化の度合いをうまくコントロールし続けなければならない境遇にあるのだ。

 ただ、経済政策の立案力と実行力、政府の指導力、汚職根絶の取り組み、人材育成など、台湾がシンガポールに学ぶべき点は多々あり、その意味ではリー氏亡き後も、競争力を保ってこの面での目標であり続けてほしいと思う。

「中台統一は時間の問題」

 リー氏はシンガポール建国初期の段階で、将来世界各国との貿易取引拡大を見込んで、中国語を公用語にしようという多数派の華人の主張を抑え英語を選択した。また、文化大革命終了から間もない頃に、中国の将来の成長を予見して協力関係を拡大した。これらの判断はシンガポールの経済成長に大きく貢献することとなり、リー氏の先見性の高さを証明するエピソードとして伝えられている。

 リー氏は国際情勢を予測することを好み、「中国は西太平洋の抗争で最終的に優勢に立つ」、「日本はゆっくりと『平凡』になっていく」、「中台統一は単なる時間の問題にすぎない」といった日本人や台湾人にとってはうれしくない予言を残した。中台関係については「台湾は中国の核心的利益であっても、米国にとってはそうではない。『独立支持が統一支持よりも多い』といった台湾内部の民意は全く関係ない。中国は戦争を起こして1回目は負けたとしても、勝つまで戦い続けることができる」とその予測の根拠を語っている。筆者は希代のリアリストの予言が外れることを願うが、頭の片隅にとどめておく必要もあるだろう。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

=============================================

 

ニュースに肉迫!