ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第20回 頂新ブランドの落日、食の安全は取り戻せるか


ニュース 社会 作成日:2014年10月17日_記事番号:T00053289

ニュースに肉迫!

第20回 頂新ブランドの落日、食の安全は取り戻せるか

 頂新国際集団による不正食用油問題が台湾全土を揺るがしているが、それにしてもひどい事件である。


拘束され裁判所に身柄を送られる魏応充氏。どのような説明を行うのか台湾中が注目している(17日=中央社)

 頂新グループは昨年11月、大統長基食品廠から禁止着色料などが入った原料油を、今年9月には強冠企業から廃食用油を使った「廃油ラード(豚脂)」を購入していたことが明るみになった。これだけでも大企業にあるまじき不祥事だが、味全食品工業が大統からの調達が明るみになった際、「われわれも被害者」と新聞広告で強弁したように、消費者に「そうしたこともあるのか」と何とか思わせていた。

 しかし、今回は傘下企業が直接ベトナムから飼料用油脂を食用と称して調達、食用油の原料に使っていたことが明らかになったわけで、言い逃れのしようがない。しかも、正義公司の元従業員が「2005年に頂新に会社が買収された後、工場内で豚肉からラードを作る光景は消え、出どころ不明の臭い油が取って代わった」と証言しているように、不正は長期間行わていた可能性があるのだ。

 こうした「コストダウン」の結果、経営陣の魏家4兄弟は莫大な財産を築き、台北101ビルの民間筆頭株主になったり、台北の最高級マンション「宏盛帝宝」で14物件をも所有するに至っているのだから、消費者をばかにするのも程がある。弊社副総経理、荘建中が以前コラムで紹介しているように(http://www.ys-consulting.com.tw/column/35151.html)、魏家4兄弟はそのサクセスストーリーが尊敬を受けていた。だが今後、頂新グループはよほどの身を切る改革を行わない限り、いかなる事業であれ台湾で継続することは困難と思われる。


台北地検は16日、魏応充氏の住居野高級マンション、宏盛帝宝を捜索、証拠品を押収した(16日=中央社)

甘過ぎた管理体制

 この1年相次いだ食品事件を通じ、台湾の食品安全への管理体制がいかに甘いかが露呈した。強冠企業の廃油ラード事件は屏東県の初老の男性の、頂新食用油事件は台南市の屋台店主による通報がきっかけだったという。つまり、通報が行われなければ不正がいつまでも続いていたということだ。

 台湾では過去25年にわたり、食品に対するGMP(製造工程管理)認証制度が設けられているが、認証対象はあくまで製造工程、つまり「きちんと作られているか」であり、原料物ではない。また、今回味全などの董事長を辞任した魏応充氏が昨年まで協会理事長を務めていたように、大企業経営陣が役員を占め、よく言われるように「プレーヤーが審判を兼任する」状況で、消費者に食品安全を保障する制度としては機能してこなかった。

 このため政府は、食品産業の原材料段階から最終商品までの情報の登録管理を行う「食品クラウド」推進や、大手食品会社に対する実験室設置の義務付け、非食品用原材料の流入防止のための電子レシート発行義務付けなどを含む食品安全衛生管理法の改正を進める方針だ。既に、日本、中国、香港が事件に関連した台湾食品や食用油の輸入を差し止め・禁止したと報じられており、美食王国・台湾の名声は確実に傷付いた。今回の事態を食品安全の再生の契機とし、以前の評価を回復できるかどうか、政府と業界の意志が問われている。

目立つ当局の勇み足

 廃油ラード事件の際、屏東県政府が対応の遅さから謝罪に追い込まれ、頂新食用油事件では、衛福部が正義公司の嫌疑を知っていながら関連製品の撤去を10数日間行わず、批判を浴びた。

 これ以上の批判を浴びるのを避けるためか、行政当局の勇み足も目立つ。南僑集団は、食用油脂の輸入の際に「工業用」と申告したため、製品への混入があったか否かも分からないまま、検察当局によって関連製品の撤去が呼び掛けられた。

 また、馬英九総統が13日に違法製品に対するボイコットを呼び掛けたが、いくら問題があったとはいえ、最高指導者が一民間企業に対するボイコットを訴えるのは行き過ぎだろう。行政当局に求められるのは司法による公正な裁きと、制度の改善に外ならない。頂新集団にも罪なき従業員は多数おり、彼らの将来も視野に入れての方途を考えるのが政府の仕事のはずだ。

 馬総統は最近まで魏家と良好な関係にあり、四男で中国流通事業を主管する魏応行氏による台湾農産物の中国輸出に協力したり、2012年の総統選の際は、工商団体後援会の副総会長に就任した魏応充氏に対し、直接任命書を手渡したりしている。

 こうした関係があるからこそ、馬総統はあえて「水に落ちた犬をたたく」ことにしたのだろう。度重なる食品安全事件は馬政権への不満を高めており、台北市長選の国民党公認候補、連勝文氏も「自分だったら辞める」と江宜樺行政院長を批判するなど、40日余り後に迫った統一地方選に影響が出ないかという焦りがみえる。食は健康に直結した重要な問題であるだけに、行政・検察当局にはしっかりとした事実認定の下で判断を行ってほしい。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

ニュースに肉迫!