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第19回 一国二制度の反面教師


ニュース 政治 作成日:2014年10月3日_記事番号:T00053048

ニュースに肉迫!

第19回 一国二制度の反面教師

 2017年の香港特別行政区行政長官選挙を民主的な選挙制度の下で行うよう求める香港の学生・市民らによる抗議活動が続いているが、2日深夜に梁振英行政長官が学生グループとの対話を受け入れる意向を示し、事態の転換点になるのか注目されている。今回の抗議活動「セントラルを占拠せよ(占領中環)」は9月28日に始まったが、その翌日の29日、馬英九総統は「普通選挙実現の要求は完全に理解できるし支持する。香港民衆の声に耳を傾け、平和で慎重な姿勢で対処することを望む」と発言している。


抗議デモを続ける香港の学生たち。「雨傘革命」という名前が付いたが求めているのは革命ではなく民主的改革だ(中央社)

 馬総統にしては中国に対し強めのトーンで、反応も速かった。これは習近平中国国家主席が26日、台湾の統一派団体と会見した際、就任後初めて台湾への「一国二制度」適用を表明したことへの反発とみられる。

骨抜き選挙に反発

 香港の抗議デモの発端となったのは、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が8月30日、行政長官選挙は指名委員会が2〜3人の候補者を承認した上で行う方式を決定したことだ。市民や政党による候補者擁立は排除され、指名委員会は北京の意向に従うことが確実視されている。すなわち現状では、17年の行政長官選挙は北京のかいらいを選ぶ儀式にすぎないのだ。

 それに対し学生・市民の激しい反発が起きているのが中国返還から17年が過ぎた香港の現実だ。香港は97年の返還に際し、外交と軍事を除いて「高度な自治権」が香港基本法で約束されていたが、議会の4割近くを占める民主派が首長候補者を擁立することすらままならない。今年6月に中国国務院が発表した「一国二制度白書」では、「中央は香港に全面的な管理統治権があり、香港には地方事務の管理権しかない」と指摘された。「高度な自治」の実現どころか、その反対方向へのベクトルが示されるのみだ。

 こうした現状から、台湾住民の間で香港は既に一国二制度の失敗例、反面教師としての評価が定着しており、習主席の発言に対しては与野党問わず強い反発が起きた。

強硬姿勢の端緒か

 ところで、中国の最高指導者が台湾統一に関して一国二制度に触れたのは近年まれで、習発言をめぐっては「強硬路線に転じたのではないか」「内部の強硬派に聞かせることが目的だった」「台湾独立への警告が真意だった」などさまざまな分析がなされている。

 このうち「強硬路線への転換」は将来充分あり得そうだ。中台間の経済的つながりを切っても切れない水準にまでに高めた馬総統は中国にとっての功労者であるため、中国はその在任中はメンツをつぶすようなことはしないはずだ。しかし、台湾統一が確固たる方針である以上、次の総統の時代にはこれまで経済面で与えてきた利益の見返りを政治面で求め、強い姿勢も取るものと筆者は予想している。習主席の今回の一国二制度発言は、その端緒になる可能性があるのではないか。

譲歩の経験なし

 1日付聯合報によると、習主席は中国共産党総書記に就任してからのこの2年、新疆ウイグル族自治区のテロ問題を含め、中国国内の自治や民主を求める動きに対し一度たりとも譲歩をしたことがないという。

 一切妥協しない強硬姿勢を貫くのみで、本来は香港の民主化デモに対してもそうしたいところだろう。ところが、場所が香港という中国政府が直接統治していない場所であること、国際社会は25年前の天安門事件を忘れておらず、米国も強い圧力をかけたとみられることから、デモの強硬排除は行いにくい。台湾のヒマワリ学生運動が平和裏に収束したため、台湾と比べて国際的評価がさらに落ちることもプレッシャーとなるはずだ。これらの要因が、梁行政長官による対話表明へとつながったのではないだろうか。

「普通選挙こそウィンウィン」

 しかし、民主主義が普遍的な価値観となっている21世紀において、民主化要求にひたすら強圧的な対応で臨むのはもう限界に来ている。台湾や韓国が80年代後半、経済成長に応じて政治改革に着手したように、中国もそうした契機が熟し始めていると思う。

 今回、馬総統は「普通選挙実現こそが中国大陸と香港にとってウィンウィン」と発言しているが、これは正論なのだ。普通選挙の要求を受け入れるか、最低限でも政治改革のスケジュール着手を表明してこそ香港の民心を得ることができ、中国自身にとってもがやがては必ず迎えなければならない政治制度改革の良い先例にできることだろう。

 しかし、現在の中国にとっては香港が離反しないか、それがチベット、ウイグル、台湾に影響を与えないかという懸念は強いことだろう。中国は今回、香港という特別な地域では少々の譲歩をするかもしれないが、共産党一党体制と広大な国土を維持するため、中国大陸内では当分の間強圧的な姿勢を続けることだろう。そうした発想の下で台湾に対して何ら魅力のない一国二制度を振りかざしたところで、単に関係が冷え込むだけだ。

 ところで、今年はヒマワリ学生運動とセントラル占拠運動を通じて、台湾と香港の間で反中・民主化の連帯が生まれている。この連帯がやがては中国の民主化に影響を及ぼすまでに育つことを祈りたい。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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