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第41回 醜態の国民党、最大の戦犯は馬総統


ニュース 政治 作成日:2015年10月16日_記事番号:T00059833

ニュースに肉迫!

第41回 醜態の国民党、最大の戦犯は馬総統

 明日17日に開催される国民党の臨時全国代表大会(党大会)で、同党の総統選公認候補が洪秀柱副主席から朱立倫主席に交代する。当初は最も当選可能性が高いとみられた「主役」が、投票日まで3カ月を切った終盤になってようやく登場するわけだが、では誰の目にも当選が不可能な洪氏を立てて選挙運動を繰り広げてきたこの3カ月は一体何だったのか。政権維持のかかった選挙を前に与党がここまでの混乱を呈したのは世界的にも珍しいだろう。国民党はなぜ事態をこれほど悪化させてしまったのか。


洪副主席は正規の手続きで候補に選ばれており、交代は党内民主主義を破壊する悪しき前例ともなる(中央社)

 そして、朱氏はなぜ最初から立候補の意思を表明しなかったのか。それが今回の国民党の総統選への対応における最大の謎だ。トップダウン式の運営が伝統の同党では、主席が総統選に出馬するのは自然で、朱氏には十分な資格があった。

度重なる圧力

 朱氏が当初出馬を見送ったことには、馬英九総統の意向が関係していたのは明らかだ。2013年2月の新内閣発足の際、馬総統は江宜樺氏の行政院長昇任を決めた。当時、朱氏は新北市長に就任してから2年以上が過ぎており、馬総統が後任の総統として見据えるのであれば、朱氏を中央に抜てきして経験を積ませる選択もあり得た。ところが馬総統はそうはせず、朱氏には新北市長を2期目も務める選択肢が残された。

 続いて14年7月、新北市林口区、桃園県八徳市での合宜住宅(低価格住宅)建設工事などをめぐる収賄で、葉世文・元行政院営建署長が逮捕される事件が起きた。事件の捜査段階で「標的は新北市の上層部」とのうわさが立ち、馬総統の懐刀である金溥聡・国家安全会議秘書長(当時、15年2月退任)が捜査機関に異例の督励を行ったことから、単なる刑事事件ではなく政治的目的を持った捜査との観測が出た。朱氏が不安感を抱いたのは想像に難くない。

 ほぼ同じ時期の6月4日、国民党で朱氏を含めて当時7人いた副主席のうち、呉敦義副総統だけが「第一副主席」に昇格する人事が行われる。朱氏は呉氏よりも一段格下だと世間に宣言されたに等しかった。

 一連の動きから、馬総統が自身を後継者として望んでいないと察した朱氏は、呉副総統が第一副主席に就任した20日後の6月24日、年末の統一地方選挙で新北市長再選を目指すと宣言したのだった。


党中央常務委員会で洪副主席に謝罪する朱主席。最初から立候補しなかったのは大きな判断ミスだった(中央社)

影響力確保が狙いか

 14年当時、朱氏は「次のリーダー」と目されていた。その朱氏が総統となれば、人気がなく人脈も薄い自身は何ら影響力を残せなくなると懸念したことが、馬総統が朱氏に圧力をかけた理由ではないかと筆者は考える。自らは退任後の陳水扁前総統を廃人同然に追い込んでいるため、後継者に非情に扱われることに危機感を持ったのかもしれない。

 最近の報道によると、馬総統はこのほど朱氏に対し、来年は呉副総統を党主席に据えるよう求めたという。馬総統は恐らく呉氏が後継の総統になることを望んでいたのだろう。自分の忠実な部下として働いてきた呉副総統であれば安心して後継を任せられると思うはずだ。

不信と分裂の負の遺産

 一方、朱氏は馬総統の人気の低さから、16年総統選での当選は困難と考えたのであろう。統一地方選の惨敗を受けて馬総統から党主席を引き継いだ後の今年4月、総統選不出馬を明言した。馬総統はこのときは直接、またはメディアを通じて朱氏に立候補を促したが、馬総統への不信感もあってか翻意することはなかった。

 直近の総統選支持率調査によると、国民党は朱氏に交代しても21%で、蔡英文民進党主席の44.6%の半分にも満たない。この状況に至ったのは、馬総統が朱氏の立候補を阻んだこと、朱氏が出馬の決断をしなかったこと、洪副主席が民意とかけ離れた発言を繰り返したことが理由だが、最高指導者である馬総統の責任が最も大きい。馬総統が私心にとらわれず、最初から朱氏を推していれば展開は相当違ったはずなのだ。


馬総統は最近、朱氏の主席としての手腕に不満を示したと伝えられるが、そうした発言をする資格があるのかとの批判も出ている
(中央社)

 馬総統は今月10日、最後となった双十節の演説で、中台関係の改善をはじめ自身の業績を誇ったが、市民の評価は低く、国民党にも大きな傷を負わせてしまった。朱氏は一連の混乱で声望を落とし、党にはもはや頼れるスターがいなくなった。そして国民党は来年以降、馬総統によってもたらされた不信と分裂の負の遺産の払しょくという、今の同党にとっては非常に困難な課題に取り組まざるを得なくなってしまった。

ワイズニュース編集長 吉川直矢

 

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