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第42回 台湾独立発言に好評価なし、中間層に焦点を絞る民進党


ニュース 政治 作成日:2015年10月30日_記事番号:T00060106

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第42回 台湾独立発言に好評価なし、中間層に焦点を絞る民進党

 1カ月前の9月30日、民進党の頼清徳台南市長が市議会での対中交流に関する質問への答弁で「私は台湾独立を主張する」と述べ、世間の耳目を集めた。

 国民党はこの発言に対し、中央の立法委員が記者会見を開いて、頼市長は蔡英文民進党主席の現状維持路線と一致しておらず、蔡主席と頼市長とで示し合わせて、中間層と独立派のいずれの票も獲得しようという策略ではないかと批判した。


頼市長の発言に対しては、デング熱拡大で人気が落ちたため、独立派の歓心を買うことを狙ったとの憶測も出た
(中央社)

 国民党が批判するのは当然ながら、民進党および独立派陣営の反応も芳しくなかった。民進党台南市議員団の郭国文総召集人は、「質問に対する答弁であり、自ら政治的立場を宣言したわけではない」と積極的に独立を主張したのではないとかばった。無所属の郭秀珠市議は独立派に近い立場でありながら「議会で台湾独立を表明するのは不適切であるばかりか、蔡主席の総統選挙情勢に悪影響を及ぼしかねない」と批判した。李登輝元総統も「独立すると言って中国が軍隊を派遣してきたらどう責任を取るのか」とたしなめた。

 発言に対する見解を問われた蔡主席も「頼市長の本意は、両岸(中台)の相互理解と平和共存だと信じている」と、自身の選挙戦での主張と結び付けた。これらの発言から頼市長の台湾独立発言に対し、好意的な反応がまるでなかったことが分かる。これを受けて頼市長は翌10月1日、「私と蔡主席の発言は、いずれも民進党の『台湾の前途に関する決議文』に基づいており衝突はない」と釈明した。さらに2日には「台湾は独立した主権を持つ国家で、名前は中華民国だ」とトーンダウンして論議を沈静化させた。

核心理念は訴えられず

 今回の総統選挙は、陳水扁政権から馬英九政権に交代した08年と状況がよく似ている。有権者の投票行動の決定要因が野党に対する評価ではなく現政権への失望感である点、そして野党が「中間層に寄る」姿勢を明確にしている点がである。

 08年当時、馬総統は統一派との評価を打ち消すべく、台湾の側に立つスローガンを台湾語でアピールし、中間層および国民党を支持しない層の票の獲得に成功した。今回の蔡主席も台湾住民の最大公約数である「現状維持」を柱に据えて、幅広い中間層の支持獲得を目指している。独立が現実的な目標として見通せなくなった現在、台湾独立の訴えはマイナスにしかならないのだ。

 台湾で民主的な選挙が実現した90年代は市長選や総統選が「統一か独立か」を訴える場だった。民進党は96年の第1回総統選では台湾独立を掲げて戦い、惨敗している。当時「統一でも独立でも極端な主張をした方が敗れる」という評価が生まれ、時代が下って今や民進党は核心理念の台湾独立を堂々と訴えることができなくなった。同党が現状維持と中華民国憲政の擁護姿勢を打ち出した今回ほど中間層志向の総統選挙はかつてなかったと言ってよい。

「法理台独」の不推進表明

 頼市長発言に際して国民党から示されたのは、「蔡主席は今は現状維持と言ってはいるが、当選したら独立志向に立ち返るのではないか」という疑念だ。

 これについて蔡主席は6月に訪米した際に、「中華民国の現行の憲政体制下で、両岸関係の平和的な発展を推進する」と発言している。すなわち、陳前総統が打ち出した「台湾新憲法」制定のような「法理台独」は行わず、中華民国の枠組みを覆すような動きはしないという表明だ。社会の「台湾化」は推進するものの、台湾の現状の対外・内部環境から、独立追求的な政策は非現実的との判断があるとみられる。


蔡主席は国民党の混乱を尻目に安定した選挙戦を繰り広げている。「蔡政権」誕生をにらんだメディアの論評も増えてきた(中央社)

 今月9日マカオで開かれた、同地の対外関係に関するフォーラムでは、主に台湾、香港、マカオ問題を研究する上海東亜研究所の胡凌煒副所長が「国民党も民進党も『法理台独』の選択肢を排除した。これが今後の両岸関係の安定と発展の新たな根拠となる」と発言して注目を浴びた。

 中国は依然、中台が「一つの中国」の立場に立つ「1992年の共通認識(92共識)」の堅持を主張しているが、92共識を否定する蔡主席が当選した場合、「台湾独立を推進しないこと」が中台間の新たな対話基盤となり得るのだろうか。「平和と安定」を左右するのは中国であり、その反応に注視していきたい。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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