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第50回 東日本大震災から5年、日台それぞれの原発事故の伝え方


ニュース 社会 作成日:2016年3月18日_記事番号:T00063089

ニュースに肉迫!

第50回 東日本大震災から5年、日台それぞれの原発事故の伝え方

 先週11日は東日本大震災から5周年だった。NHKの夜のニュース番組では、震災の記録を保存したり、体験談を伝える活動に取り組んでいる岩手県宮古市の中学生の話題が取り上げられた。5年の月日が流れ、震災の悲劇と教訓をいかに後世に伝えていくかというテーマに報道の重点が置かれていた。翌日の日本の大手各紙も、亡くなった家族や友人への追憶、鎮魂の思い、そして再出発といった遺族たちの現在の姿を中心に紙面を構成した。震災から5年という歳月を、一つの区切りと捉えている遺族が多いように感じた。

/date/2016/03/18/20news1_2.jpg12日に各地で行われた反原発デモ。ちなみに台北市は「世界で最も原発に近い大都市」とかつて米CNNに報じられたことがある(中央社)

 3月11日は日本にとって、犠牲者に鎮魂の祈りを捧げ、被災地の復興を誓う日だ。一方、台湾では毎年この日に合わせて全土規模の反原発デモが行われるようになった。狭い国土に3基の原発を抱え、4基目の建設が凍結中であることから原発事故への関心が強い。翌12日の大手紙の震災関連報道は、自由時報が台湾の反原発デモを中心に据えて、大部分が原発や食品の安全問題に関するものだった。中国時報も遺族の話題を最初に伝えつつ、それ以外はすべて原発関連の記事が紙面を埋めた。

 蘋果日報は震災3日後に起きた福島第一原発3号機の爆発事故の写真を掲載した。工商時報は米ニュース専門チャンネルCNBCの報道を転電し、福島第一原発から海洋への放射性物質の漏出は今後数十年も続き、太平洋からやがては全世界に拡散するという海洋学者の見解を伝えた。

今も続く汚染水流出

 日本では3号機爆発の写真はもちろん、海洋への放射能の拡散のニュースが報じられることはほとんどない。東京電力は以前、1日当たり約400トンの地下水が福島第一原発の周囲から太平洋に流出していると発表した。昨年10月に遮水壁が完成してからは大幅に減ったそうだが、メディアが報道しないため、高濃度汚染が疑われる地下水の海洋流出が今この瞬間も続いているという現実を知る人は多くないと思われる。

 筆者は放送記者をしていた1994年、チェルノブイリ被災地から埼玉県南西部に保養に来た3人の子供たちを取材したことがある。肌の色がまるで色素が抜けたような異様な白さだったことと、体力がなくすぐに疲れてしまうといった話を聞いたことを記憶している。原発事故の恐ろしさを伝えるニュースとして関東地方でオンエアされたが、当時それは当たり前のことだった。

 しかし、福島の原発事故では、こうした健康に問題を抱えた子供が大手メディアに登場することはない。福島県内で甲状腺がんやがんの疑いと診断された18歳以下の子供は昨年末までに166人という数字と、「放射能の影響は考えにくい」という県民健康調査検討委員会のコメントの載った記事を目にするだけだ。

 放射能の影響に関する報道を抑制する大手メディアの姿勢は問題だと思う。しかし、そうする理由は推察できる。なぜなら、福島原発事故で起きている健康被害の追及を始めたら、狭い国土の日本ではあまりにも影響が大き過ぎ、結果に対する責任を取れないためだ。

台湾海域にも影響?

 工商時報が引用したCNBCの記事によると、米海洋学者のKen Buesseler氏は昨年12月にカリフォルニア沿岸で海水1立方メートル当たり約11ベクレルのセシウム134を採取した。ハワイの北1,500マイルの海域でも10ベクレルを観測し、従来の2倍の水準だという。

 これらの数値は米国の飲料水の安全基準を大幅に下回るが、原発事故以来、日本近海ではカツオ、サンマ、サケ、ブリなどの記録的不漁が相次いで伝えられている。台湾でも昨年12月以降、台東でのカジキやシイラの不漁、台南・嘉義でのカラスミの生産減、北部海岸で例年2月まで捕れる通称「万里蟹」が昨年11月を境に急に見られなくなったことが報じられた。

/date/2016/03/18/20news2_2.jpg無人の街と化した福島県富岡町。これほどの被害をもたらす可能性がある原発が、国民的議論のないままに再稼働されてしまうのが今の日本の残念な現実だ(中央社)

 福島第一原発からの高濃度汚染水の海洋流入量は、1日約400トンが昨年10月まで続いたとして合計で67万トンに達した計算になる。このことと海産物の不漁は関係があるのか。原発事故の後遺症との格闘はこれからも長期間続くだろう。政府や大手メディアが伝えない中、自ら積極的に情報を集めて安全か否かを判断することが、現代の日本人にとって極めて重要ではないだろうか。

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