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第52回 窮地に立つ柯文哲市長


ニュース 政治 作成日:2016年4月22日_記事番号:T00063757

ニュースに肉迫!

第52回 窮地に立つ柯文哲市長

 柯文哲台北市長の人気が急落している。今週18日、台北ドーム問題への市の対応について民進党市議団に説明した際、「遠雄企業団(ファーグローリー・グループ)は馬英九総統が後ろから支えている」と涙ながらに事業担当会社を批判した。しかし、こうした「陰謀論」を持ち出すこと自体、柯市長がこの問題で追い詰められている証拠だ。ある民進党市議は「泣いても無駄だ」と冷ややかに批判した。

/date/2016/04/22/20news1_2.jpg柯市長は台北ドーム問題で、傷口をできる限り小さくする対応が求められる(中央社)

 週刊誌『時報週刊』が3月下旬に世論調査会社ギャロップに委託して行った調査によると、柯市長に対して「満足」との回答は42.4%、「不満足」は39.1%で、ほぼ拮抗(きっこう)した状態だ。「満足」69.7%、「不満足」10.6%だった就任当時と比べると大きく様変わりした。青(国民党)と緑(民進党)の政治対立を乗り越える「白色革命」を旗印に、「公平正義」の実現を訴えて登場した外科医出身の新人市長は、今のところ市民の期待に応えられていない。

「余計な問題の製造機」

 柯市長の評判を大きく下落させたのは、台北ドーム問題への一連の対応だ。国父紀念館に隣接する忠孝東路北側の土地に大型ドーム施設やオフィスビル、ホテルなどを建設するBOT(建設・運営・譲渡)事業において、市と遠雄企業団との契約に不正があったと疑い調査を実施。その過程で、工事の安全性への懸念から昨年5月に施工中断を命じ、今月、両者が契約解除で合意したのがこれまでの経緯だ。これまでの調査で贈収賄などの深刻な不正行為は見つかっていないことから、台北市のBOT事業への信頼感を落とし、世界水準のドーム球場の誕生を望む市民の期待に反した調査は、そもそもやる必要があったのかと疑問の声が高まっている。柯市長は市政府内で「余計な問題の製造機」と呼ばれるに至っている。

 工事を中断させたことは特に大きなマイナスだった。工事請負業者で組織した自救会によると、この判断によって業者の2割が資金繰りが困難になり、1社が倒産した。遠雄は工事中断による損失額を70億台湾元(約240億円)と試算し、契約解除に当たって市に請求する方針だ。台北市は「事業を継承する企業が払うべきで、市は一銭も出さない」との立場だが、そんな理屈は通るまい。遠雄と論争を続ける中でも、少なくとも工事は続行させておけば、余計な費用の発生は抑えられたのではないか。

組織を機能させられず

 柯市長は公共レンタサイクル「YouBike(ユーバイク、微笑単車)」や路上駐車スペースなどの有料化を推進してきた。利用者負担の原則による市の財政健全化という看板を掲げたが、台北ドーム問題で大型出費を余儀なくされれば説得力を失い、かえって市民の反感を買うだろう。

 柯市政が厳しい状況を迎えている背景について、柯市長に近い関係者は筆者に対し、「大きな組織を動かす経験を持たないまま、台湾大学医学院附設医院(台大医院)のときと同じように独裁的に振る舞っているためだ」と説明した。本人も周囲も公務員の動かし方を理解しておらず、組織を円滑に機能させられない弊害が大きいという。ちなみに、来月離職する財政局長を含め、柯市長就任後に市政府を離れた部局長クラスの一級幹部は7人に上る。

仕切り直しをすべきとき

 柯市長は最近、費用がないことを理由に保育政策の縮小、受益者負担を強化する方針を打ち出した。警察官のパトロールは非効率だとして削減する考えを示したこともある。財政再建に目が行くばかり、行政は市民のためにあるという根本を忘れているかのようだ。たとえある程度費用がかかったとしても、一般市民の生活を支えるために削ってはならないこともあるはずだ。

 柯市長は、支持率を落とした原因を自省して、一度仕切り直しをすべきだろう。これといった実績はまだ何もないが、台湾政治を青緑対決から脱却させる可能性を示した特別な意義を持つ人物だ。このまま評価を下げ続けて、3年後の市長選でまた旧来の対立構図が復活することになれば台湾社会にとって損失だと思う。コミュニケーション手法と政策の考え方、実行手法を練り直して、本来の優秀な頭脳と、台湾最北端から最南端まで自転車で走り抜ける気力が良い政策に生かされ、市民から評価される日が来ることを筆者は依然期待したい。

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