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記事番号:T00065273
2016年7月15日15:58

 オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は12日、南シナ海で中国が主張する主権や権益が国際法に違反するとしてフィリピンが申し立てた仲裁手続きで、歴史的に同海域を支配していたとする中国の主張を退け、同国が設置したいわゆる「九段線」を否定。同時に南沙諸島(スプラトリー諸島)には「島」は存在しないとの判断を示した。周辺国の反発を無視して人工島の造成と軍事拠点化を進めてきた中国は完敗を喫した一方、台湾も「最悪の状況(李大維外交部長)」と受け止めている。

/date/2016/07/15/20news_2.jpg軍艦上で説明を受ける蔡総統(右3)。野党国民党からは、太平島への早期訪問を要求されている(中央社)

 台湾は南沙諸島の面積0.51平方キロメートルの太平島を1956年から60年間にわたって実効統治してきた。太平島の住所は高雄市旗津区中興里で、定住民はいないが、行政院海岸巡防署(海巡署)の職員が常駐している。満潮時でも水面下に沈むことはなく、湧き水も出る。にもかかわらず、突如国際法上で「岩礁」として扱われることが決まったため、主権が侵害されたとして与野党が強く批判している。

 「島」と認識されていた太平島が「岩礁」とされると、12カイリ(約22キロメートル)の領海は維持できるものの、200カイリの排他的経済水域(EEZ)は設定できなくなり、台湾漁船が南シナ海の合法的な漁場を失うことになる。それによる漁業損失は少なくとも数十億台湾元に上るとされ、さらにフィリピンやベトナムに操業を妨害されるリスクも高まる。

 総統府は仲裁判断を「決して受け入れない」と表明し、フリゲート艦「迪化艦」を13日に南沙海域に派遣して主権を主張するとともに、蔡英文総統が将来太平島に上陸する可能性も排除しないと言明した。14日付自由時報によると、かつて太平島に常駐していた海軍陸戦隊を再配備することも計画しているようだ。

中国と一線画す

 今回否定された中国の「九段線」は、1947年に当時まだ中国大陸を支配していた中華民国が設定した「十一段線」を継承したものだ。中華人民共和国は、友好国北ベトナムに配慮して「十一段線」のうちトンキン湾付近の2つの線を消し、現在の「九段線」となった。台湾では「U形線」と呼ぶことも多い。「U形線」をめぐり中国と台湾は、本来主張が一致するのだ。

 しかし、軍事力によって南シナ海全域の支配を企図し得る中国と、太平島のみに関心が集中する台湾とでは、歴然とした温度差が存在する。蔡政権は今回、南シナ海各諸島の主権を主張する際に、47年に発表した「南海諸島位置図」を根拠に挙げたものの、「U形線」や「歴史的水域」への言及は避けた。この問題で中国と共同歩調を取ると見なされると国際社会で孤立を招く危険性がある上、中国による統一攻勢に利用される恐れもあるため、慎重に対応しているのだ。行政院大陸委員会(陸委会)は13日、「原則として主権問題で中国と協力することはあり得ない」と明言した。

 仲裁結果は、台湾が今後太平島の権益を守っていく上で明らかに不利だ。当面、兵力増強などの措置については米国と意思疎通を図りつつ、中国が情勢を緊張させるはるか以前からの既得権益であること、地域の緊張を高める意図はないことを粘り強く主張していく以外にないと思われる。

沖ノ鳥島、「岩礁」の声強まる

 仲裁判断が出された後、日本の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)について、「太平島が岩礁であれば、沖ノ鳥島はなおさら島ではない」との指摘が台湾政界から相次いでいる。

 連戦・国民党元主席は「沖ノ鳥島は太平島よりもさらに小さくEEZを設定する資格はない。日本は仲裁結果の受け入れを呼び掛けるのであれば、沖ノ鳥島でのEEZと大陸棚の権利主張をやめるべきだ」と主張。6月に赴任したばかりの謝長廷駐日代表も、「全て一律に岩礁として扱うことを希望する」と話した。

 仲裁判断は、中国に南シナ海での主権主張の根拠を失わせた一方、沖ノ鳥島周辺海域のEEZ設定をめぐって日台間の摩擦を高める事態を生みそうだ。この展開を見越していたのであれば、退任直前に「沖ノ鳥島は島ではない」と表明した馬英九前総統には、先見の明があったと認めざるを得ない。

吉川直矢

吉川直矢

ワイズメディア

東京外国語大学中国語学科卒。大手放送局記者、海外経済情報メディアでの編集長職を経て、07年Y'sニュース創刊に参加、以来編集長を務める。専門分野は台湾政治。
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