第3回 『KANO』を貶める論争


ニュース 社会 2014年3月20日

編集長のニュースに肉迫!

第3回 『KANO』を貶める論争

記事番号:T00049258

  今回も映画『KANO』に関する話題を続ける。『KANO』を見た若い台湾人は、「日本統治時代とはどのような時代だったのか」と知りたい気持ちが起きるようだ。「小魯」を名乗るネットユーザーが今月9日に作成した、台湾各地の日本統治時代と現在の写真を比較したインターネットページ(http://disp.cc/b/18-7oZR)が話題となっている。車社会の発達といった変化はあるものの、「小魯」氏自身も指摘しているように日本統治時代の各地の街角が整然としている一方、現代はかなり雑然としてしまった印象だ。


批判をよそに『KANO』で球児を演じた素人俳優らは最近も台湾各地を回り、熱烈な歓迎を受けている(果子電影Facebookより)

 映画は「1930〜35年は台湾にとって最も美しい時代だった」と考える魏徳聖氏がプロデューサーを務め、当時を明るいトーンで描いた。そうなると戦後の国民党時代は、日本統治時代に比べて劣っていたかというところに否が応でも想像がめぐる。中国人アイデンティティーを持つ人々はこれが気にくわないのであろう、『KANO』を貶める動きを顕在化させた。

中国時報が主舞台

 『KANO』批判は、主要メディアでは主に中国時報のオピニオン欄で展開されている。公開前の2月12日、淡江大学の林金源副教授が「『KANO』は台湾の主体性を腐らせる」と題して、「族群(エスニックグループ)が融合し、怨恨を解き放つのは良いことだが、侵略者である日本の謝罪が前提だ。日本は第二次世界大戦終結後、一度も両岸(中台)の中国人に謝罪や賠償を行っていない」、「嘉義農林は日本の利益のために設立された。少しでも尊厳を持つ台湾人は日本人の観点から嘉義農林と同校野球部を見ることはない」と主張した。

 上映開始となり大ヒットが伝えられた後の3月11日には、水産養殖業者を自称する陳錦謀氏が「戦争の残酷さや非人道性を意図的に忘却した」と批判。「だから観衆たちは映画が終わった後、拍手もせず静かに帰った」とけなした。

 今週17日にはベテランメディア人、徐宗懋氏による「光復(中華民国による台湾回復)こそ台湾野球の起点だ」との主張が掲載された。いわく「一部の優秀な球児を除いて進学やさらなる発展の道が用意されず、せっかく起こした火が日本植民政府の差別政策の前に消えてしまった嘉義農林ではなく、社会の広い支持によって球児の卒業後の進路が用意された60年代後半の少年野球こそが台湾野球の出発点だ」というものだ。日本統治時代には「日本崇拝と劣等感」があり、それらが一掃されて「中国人としての民族的自尊心」が生まれた戦後こそが価値があるというわけだ。

族群融和の否定に

 これらの論評は「日本は一度も謝罪していない」、「嘉義農林は日本の差別政策によって衰退した」など事実誤認や論拠不明の主張がある上、日本と言えば植民地統治の弾圧、戦争犯罪という図式に凝り固まっており、事実を検証しようという知的誠実さが全く感じられない。

 「台湾野球の出発点は戦後の少年野球」との主張に至っては、思い込みの上だけに展開された論説である上、異なる人種が協力して甲子園で準優勝を遂げた嘉義農林の快挙の否定は、今の台湾の族群融和、多様性を否定することにつながってしまう。「中国人としての自尊心」を持つ者の成果こそ評価に値するという、とんでもない人種差別的な主張なのだ。

 付け加えれば、野球は日本統治時代、台湾全土に最も普及したスポーツで、戦後国民党政府が日本の名残と見なしてあまり力を入れず、バスケットボールの普及に努めたのは有名な話だ。戦後20年以上たって、少年野球がたまたま国際舞台で優秀な成果を収めたから脚光を浴び、政府も発展に力を入れるようになったのだ。

 『KANO』を何が何でも貶めようとする日本否定ありきの主張からは、逆に在台中国人の劣等感が透けて見える。中国時報で展開される主張に対しては、「『KANO』人気は、馬英九政権の投降的な親中姿勢に対する嫌悪感の反映だ」、「純粋な野球映画であり、ことさら政治的に見るべきはない」、「台湾は日本に対し『親しくしても媚びず、批判しても敵視せず』であるべきだ」などといった批判的な反応が他紙で出ている。

 『KANO』を批判する人々は、台湾独立派が中国に関することには何でも反対する(逢中必反)と非難するが、自分たちこそ戦争の恨みから「逢日必反」に陥っていないか省みるべきだろう。彼らが当時を客観視できるようになれば台湾の知的空間に大きな進歩がもたらされるのだが、ただ、戦後これだけ長く台湾にいながら台湾社会の多様性や寛容性から何も学んでいないわけだから今後も困難と思う。

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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