第4回 学生運動、真の標的は対中傾斜


ニュース 社会 2014年3月27日

編集長のニュースに肉迫!

第4回 学生運動、真の標的は対中傾斜

記事番号:T00049395

 中台間のサービス貿易協定をめぐる馬英九政権と学生側の対立は、この記事をまとめた27日昼現在、膠着(こうちゃく)状態に陥っている。


立法院の占拠は10日目を迎えた。気温が上がり、外で座り込みを続ける中には、日傘をさす女子学生も
(27日=中央社)

 学生たちが23日夜から24日朝にかけて行政院を占拠した際は、行き過ぎの観もあった。同協定の審議プロセスに不満で立法院を占拠したわけだから、行政官庁まで占拠するのは筋違いで、占拠が成功していれば批判を受ける可能性が高かった。しかし、暴力的な強制排除を受け流血する者も出たことで世論の流れが変わった。国民党立法院議員団は、強行突破した委員会で審議をやり直すことに譲歩した。

 当初、透明な審議を求めて立ち上がった学生たちは、現在中台間の協定に対する監督メカニズムの法制化を主張し、サービス貿易協定の審議に先立ってこの実現を求めている。ただ、馬英九総統は26日、「同協定はかつてないほど厳しい審査プロセスを経ており、ブラックボックスとの批判は当たらない」と発言した。

 同協定を結ぶ方針は既に2010年6月の海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)締結の際に明らかにされており、昨年6月下旬に中国との間で調印された際に内容も公になっている。昨年9月には協定をめぐって蘇貞昌民進党主席と馬総統の間で公開討論が予定されていたが、直前に起きた馬総統と王金平立法院長の政争を理由に蘇主席が参加を取りやめ、政争が終わった後も開かれていない。野党の指導者にとって、意欲があれば馬総統を問い詰める時間はいくらでもあったわけだ。今回の事態を国民党側から見ると、批判はいまさらの感があり、民進党の審議ボイコットを強行突破しようとした結果、意外な地雷を踏んでしまったという思いだろう。

競争は同条件

 台湾の一般市民の間では、サービス貿易協定そのものは必要だという声は多い。貿易立国の台湾が、主要な貿易対象国・地域と自由貿易協定(FTA)網を結んでいくに当たって、仮に同協定を撤回するようなことがあれば今後の交渉に影響するのは当然で、経済競争力の強化という点で明らかにマイナスだ。馬総統が記者会見で指摘した、国際的信用度が落ちて孤立化が深まるという議論はうなずける。

 今回のサービス貿易協定は、中国資本に対し開放する業種の種類、対象の64項目中既に27項目で開放されていること、および中国からの投資移民、労働者の就労、永久居留権は認めないことなどから開放範囲は小さいと考えられる。この程度の開放さえできないようであれば貿易立国としてはむしろ問題だろう。

 一部には、開放される美容室や印刷業で、中国の業者が押し掛けて、台湾業者の仕事を奪ったり、悪性の値引き競争が起きるといった懸念が出ている。しかし、例えば既に開放されているレストラン業では、成都市の著名な「譚魚頭麻辣火鍋」や、中国最大級の火鍋専門店「小肥羊火鍋」が台湾に進出したものの、業績が上向かず撤退している。中国で大手であっても、業績が悪ければ撤退するのは他国の外資と一緒だ。新たに開放される業種でも、中国業者は台湾に進出すれば、仕入れや人材採用など台湾業者と同条件で競争するわけだから、安値競争を仕掛ければ自身に跳ね返ってくるのだ。

 日本企業の台湾進出では「台湾人の仕事を日本人が奪う」といった批判は聞いたことがない。中国企業の場合でも、台湾でのビジネスが成功すれば雇用拡大に貢献するのだが、反対派は声を大にして危機感を叫んでいる。

経済的統一に懸念

 ここに今回の騒動の本質がある。相手が中国であるためだ。本来は経済分野の協定で、開放の度合いは小さく、FTA網構築の上で避けては通れないのに、中国による政治的統一の前段階である経済的統一へ歩みを進めるものと解釈されているのだ。それはまさに、馬政権による将来的な統一を視野に入れた政策推進が、台湾社会で拒否感を生んでいることの反映に他ならない。

「前倒し」の学生運動

 馬政権は1期目の対中交渉は経済だけに絞ったが、2期目に入りこの2月、行政院大陸委員会(陸委会)と中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)との間で戦後初の閣僚級会談が実現し、馬総統と習近平国家主席による初の中台首脳会談が話題に上った。また、高校教科書の中国寄りの史観への書き換えを決めたり、日本統治時代の公文書表記も「日治」から「日拠」へと侵略的なニュアンスに変更した。街ではどこの銀行でも人民元の定期預金の宣伝広告を目にするようになった。こうした政治的、社会的な面で中国への傾斜を強まったことに学生たちが危機感を抱いて反発、本来は政治的イシューに対して起こる学生運動が、経済的イシューをきっかけに前倒しで起きたと考えられる。

 今回の学生運動は、将来的な統一を志向する馬総統と、今の台湾社会の「そり」の合わなさを如実に示している。馬総統が企図する中国との政治対話の推進は、困難度が高まった。 

ワイズニュース編集長 吉川直矢

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