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第85回 試用期間中の解雇について


ニュース 法律 作成日:2015年2月9日_記事番号:T00055365

知っておこう台湾法

第85回 試用期間中の解雇について

 台湾高等裁判所は、2014年12月31日、2014年労上字第58号判決において、労働契約の試用期間に関する約定は、労使間の契約自由の範囲にあり、約定が社会通念に合致していて、公序良俗、信義誠実の原則または強行規定に違反していなければ、その約定には契約法上の効力が生じるものとし、当事者を拘束することができる旨判示した。

本件の概要:

 甲は13年5月から営業アシスタントとして乙旅行社に雇用され、約定された賃金は2万3,000台湾元だった。同年6月に、マカオへの旅行を予定していた乙の顧客丙は台湾の兵役適齢男子(19〜36歳までの男性)であり、兵役適齢男子の場合は出境前にあらかじめ県市政府の兵役課の許可を得なければならないことを事前に知らされなかった。そのため丙は出境することができず、丙はこれにより乙に料金の全額返還を要求した。乙は、丙に対してサービスを提供する担当者の1人として甲には落ち度があり、加えて甲の試用期間における仕事ぶりも好ましくないと判断したため、甲を解雇した。甲は、甲乙間に試用期間の約定があったことを否認し、また、乙による甲の解雇は不当であるとして、乙を相手取って両当事者間の雇用関係の存在の確認、並びに賃金の給付などを求めた。

試用期間中も労働基準法適用

 裁判所は審理の結果、甲敗訴の判決を下した。その主な理由は次の通りである。

一.甲は審理手続きにおいて、当初は両当事者間に試用期間の約定があったことを否認していたが、その後「私は3カ月の試用期間があることを知っていたが、乙は試用期間中に私を解雇する可能性を告知してくれなかった」と述べている。一般的に、従業員の職務遂行能力を判断するため、雇用主は通常、新入社員と試用期間を約定する。よって、本件において両当事者間に試用期間の約定があったとの乙の主張の方が、信用するに足る。

二.労働契約の多様さから言えば、雇用主がどのくらいの試用期間があれば雇用した労働者が適任であるかどうかを審査・確定できるかについて、一定の基準期間を設定することは困難である。そのため、労働契約の試用期間に関する約定は、労使間の契約自由の範囲にあり、その約定が社会通念に合致していて、公序良俗、信義誠実の原則または強行規定に違反していなければ、その約定には契約法上の効力が生じるものとし、当事者を拘束することができる。本件の試用期間が3カ月であるとする乙の主張の方が、採用するに足る。

三.雇用主が試用期間において、労働基準法第11条(以下の事由の一に該当する場合でなければ、雇用主は労働者に対し労働契約の解除を予告してはならない)第5号(労働者がその担当職務において確かに不適任である場合)の規定に基づき、労働者との労働契約の解除を予告するには、労働者の職務遂行能力、心身の状態、学識・品行などの積極性・客観性、および労働者が主観上「できるのにやらない」、「できるのにやろうとしない」という不作為の状況があるかどうかについて総合的に考慮しなければならない。本件で兵役適齢男子が出境する際の具体的な手続きを丙は知らされていなかったことについて、甲にも落ち度があり、また、甲は試用期間中、同僚との協働も十分でなかったため、かかる業務に不適任であると認めるに足りる。よって、乙が甲との労働契約を解除したことには理由がある。

 試用期間中であるか試用期間満了後であるかにかかわらず、雇用主が労働者を解雇しようとする場合、労働基準法の規定に従わなければならない。もっとも、試用期間中の解雇について、実務上、裁判所はやや使用者の利益を保護する傾向にある。従って、日系企業が新入社員を雇用する際には、必ず書面で試用期間を明記しておくことをお勧めする。

黒田法律事務所・黒田特許事務所

1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
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蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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