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第178回 実用新案侵害判決確定後に無効審決が確定した事例


ニュース 法律 作成日:2015年4月22日_記事番号:T00056556

産業時事の法律講座

第178回 実用新案侵害判決確定後に無効審決が確定した事例

  利奇機械工業(以下「利奇」)は、2001年12月11日から2012年3月9日までを特許期間とする新型專利(日本の実用新案に相当、以下「実用新案」)277463号「自転車用ディスクブレーキパッド自動ポインティングブレーキシステム」の特許権者でした。利奇は、08年初めに彦豪金屬工業(以下「彦豪」)が当該実用新案を侵害したことを理由に、台中地方裁判所に対して、民事訴訟を提起、500万台湾元の損害賠償を求めました。

 台中地方裁判所は、09年12月31日の判決で、原告側の全面勝訴を言い渡しましたが、被告は、知的財産裁判所に対して控訴を申し立て、利奇の実用新案は周知の技術の組み合わせでしかないため、進歩性を有しないと主張しました。その後、被告は、10年2月には知的財産局に対して当該実用新案の無効審判を提起しました。

 知的財産裁判所は10年12月23日に被告のこの訴えを退けました。判決の中で裁判所は以下のような理由から、被告の「特許無効」の抗弁を認めませんでした。

 ▽被告は第一審の段階で、当該実用新案が無効である旨の主張をしておらず、そのような主張は第二審において初めて行われた▽被告は、自らの遅延について何らの正当な理由をも説明できていない▽これらのことからも、被告の主張は「期限を逸して提出された攻撃または防御で、訴訟の終結を妨げる」ものである。

 知的財産裁判所は本案の審理には1年も費やされていたのに、なぜ、被告の新主張が「訴訟の終結を妨げ」ていると判断したのかについての説明をしていません。しかし、最高裁判所はそれでも、11年3月に、被告の上告を棄却しました。被告は2011年4月に確定判決を履行し、538万4,062元を支払いました。

無効なのに有効?

 さて、被告の提起した実用新案無効審判は、12年1月に知的財産局により、「無効審決」がされ、「実用新案は無効」との判断がなされました。その後、原告である利奇は訴願を試みましたが、失敗に終わり、その後の行政訴訟についても、13年2月には知的財産裁判所、同年7月には最高行政裁判所の判断を経て訴えは退けられ、当該実用新案の無効が確定しました。

 被告は当該実用新案の無効判断を勝ち取った段階で、直ちに知的財産裁判所に対して「再審請求」を行い、当該実用新案が無効となったことを理由とした「再審」の開始を訴えていました。しかし、知的財産裁判所は、同年3月29日にその訴えを以下のような理由から退けました。

 ▽係争実用新案は、確かに無効と判断されたが、利奇はすでに訴願を提起している▽行政救済が「確定」するまでは、当該実用新案は有効である▽つまり、原判決の基礎となった法律的事実(実用新案は有効)については、何らの変化も起こっていない。

 これに対し被告は抗告を提起しましたが、最高裁判所は13年3月27日にそれを棄却しました。

 その後、被告である彦豪は、係争実用新案の無効が確定した後に、再度の「再審」請求を行いました。それに対して知的財産裁判所は以下のような理由から、14年9月に判決により請求を棄却しました。

1. 知的財産案件審理法の規定によると、民事裁判所は、自ら特許の有効性を判断できる。つまり、知的財産裁判所は知的財産局の「実用新案有効」との行政処分を判決の基礎として民事判決を下すわけではない。

2. 知的財産案件審理法では「当事者が訴訟を迅速に進行する義務を督促し、訴訟と訴訟終結の遅延を避ける」ことが求められている。被告は自ら「期限を逸した主張」を行ったのであるから、被告はその責任を負う。

最高裁、事実変更を確認

 これに対して上告を行った彦豪の訴えに対して、最高裁判所は、15年3月に、以下のような理由から、判決により上記の知的財産裁判所の判決を破棄しました。

1. 特許権者が特許権により提起した侵害訴訟に勝訴し、また当該判決が確定した後、特許権が無効であるとされ、かつ当該判断が確定した場合、当該特許権は存在しなかったこととなるわけであるから、原判決の基礎となった法律的事実は、すでに変更された。

2. 原二審判決は、被告が「期限を逸して提出された攻撃または防御」を行ったことを理由にその主張を退けた。それはつまり、原確定判決は係争実用新案の有効性に関して、自ら判断していないということにほかならない。

無効の実用新案が2年も問題に

 このような判断を見る限り、最高裁判所は、本案の再審を開始し、原判決を破棄、利奇に対して、すでに受け取っている金額を返還することを求めることが可能であると判断しているようです。しかし、無効な特許権の特許権者が特許権を行使することができないことは、知的財産案件審理法に明文規定が設けられていることを根拠とするまでもなく、そもそもが信義則に基づいた当然の法理です。そんな中、すでに無効が確定した実用新案が、ゾンビの如く裁判所の中でのみ存在し続け、2年が経過した今でも問題となっているというこの事態は、法律的思考の「ばかさ加減」を十分に表したものだと言っていいでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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