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第181回 科学技術製品に対する著作権侵害の判断方法


ニュース 法律 作成日:2015年6月10日_記事番号:T00057456

産業時事の法律講座

第181回 科学技術製品に対する著作権侵害の判断方法

 台湾では、科学技術製品の開発メーカーが、集団離職した職員が類似の製品を製造することに携わっているなどとして、知的財産権の侵害を理由に提訴する案件が後を絶ちません。しかし、提訴が成功した例は少ないです。最高裁判所は最近の判決で、そうした現状に多大な不満を表明しました。

 微窓科技公司(以下「微窓」)は、監視カメラ「Rainier」に対応した「マルチ画面分割プロセッサー」を開発し、米国の関連企業であるAvitech社を通じて当該製品を販売していました。微窓の社員であった唐慰祖氏ら6人は2008年に微窓を離職し、已琳科技公司(以下「已琳」)を設立。米国にはApantac LLC社を設立し、微窓と同様の製品の製造販売を始めました。微窓は、已琳の製造販売する製品は、微窓のプログラム著作のユーザーインターフェースとソースコードをコピーしたものであり、また「Rainier製品および部品の設計図」の著作権も侵害するものであるとして、已琳およびその関係者を著作権の侵害、労働契約違反、秘密保持義務違反、競業避止義務違反を理由に、当該侵害の排除および損害賠償、新聞への謝罪広告の掲載などを要求しました。

一審・二審とも原告敗訴判決

 知的財産裁判所第一審は、13年5月に微窓敗訴の判決を下し、同裁判所における第二審も以下のように判断し、14年9月に控訴を棄却しました。

 コンピュータープログラムの著作権の保護対象は、文字と文字以外の部分に分けられる。ソースコードとオブジェクトコードは文字に当たり、文字以外の部分は▽プログラムの構造▽シークエンス▽組織構造▽メニューコマンド構造▽ロングプロンプト▽マクロインストラクション▽ユーザーインタフェース▽外観および感覚──などが当たる。

 コンピュータープログラムの侵害判断には、分離、ろ過、比較のステップを経て侵害を認定する抽象メソッドを使用すべきである。抽象メソッドとは、▽まずプログラム中のイベント部分を分離する▽次に普遍的または抽象的な部分をろ過する(ろ過された部分は「構想」であるため著作権法の保護は受けない)▽最後に両プログラムの構想以外の部分を比較する▽もし両者に相当程度または相当数量の一致が見られ、かつ、当該部分が普遍性を備えていない場合に限り、著作権侵害が認められると判断する──という判断方式である。

 第一審は、台湾電子検験中心(ETC)に鑑定を依頼し、「両プログラムのソースコードとオブジェクトコードはともに異なったものであり、また操作設定画面、実行ファイルとその読み取り設定ファイル、およびプログラム中の特殊設計などが異なる」との鑑定結果を得たため、已琳はプログラム著作権を侵害していないと認定した。

 両者のソースコードの一致部分について、知的財産裁判所は▽表現併合の原則(思想または観念に単一または極めて有限な表現方法しか認められない場合、一致している表現について著作権を侵害しないとする原則)▽ありふれた情景の理論(標準的な表現や主題から生まれた表現、外部要因から要求される表現には著作権の保護が与えられないという理論)──などにより、著作権を侵害しないと判断した。

 知的財産裁判所は、両者のユーザーインターフェースにおける指令の違いについても、「効能は近似しているが、表現方法が異なる」とし、著作権を侵害していないと認定した。

 已琳製品の組み立て構造、外観、部品などは、微窓の「Rainier製品および部品の設計図」によるものであると認めることはできるが、図形著作表示の寸法および規格、構造図から立体物を作成する行為は実施行為であり、単純な「著作内容の再現」ではないため、設計図を複製・盗用したことにはならず、著作権を侵害するものではない。

 被告は原告の著作権を侵害していないため、労働契約違反、秘密保持違反、競業避止義務違反ともならない。

専門家がETCに懐疑的意見

 微窓が已琳を提訴した直後、唐慰祖氏らは米国において、Apantacの名義でAvitechに対して、同じく已琳のコンピュータープログラムが微窓のコンピュータープログラム著作権を侵害しているかを争点とした訴訟を提起しました。当該案件においては、マイクロソフトのシニアエンジニアShun Liang氏が、前述のETCの鑑定報告に対して、以下のような専門家意見を提出しました。

 唐慰祖氏はプログラムの編集記録を保存していないため、提供できないとしているが、それはプログラム編集者としての常識に反したものである。

 双方のコンピュータープログラムの資料を見比べた結果、双方のファームウエアには多くの点で「完全に一致」または「極めて類似している」コードが使用されており、また完全に一致している変数の名称・リンク名称・関数値さらには一致している符号など、偶然ではあり得ない表現が存在していることからも、已琳が微窓のコンピュータープログラムを複製・盗用したことは明らかである。

 ETCの鑑定結果には、結論に至った根拠とその判断過程および比較分析の過程が示されておらず、専門の盗用検査システムによる比較分析も行っていない。また、当該鑑定は、異なるビルドの編集ソフトウエアであっても比較分析は可能であるにもかかわらず、それすらもできないとして行っておらず、ファイルの名称を比較したのみである。このような鑑定結果には、瑕疵(かし)があることは明らかである。

最高裁、原判決を破棄

 知的財産裁判所はその判決においてこのShun Liang氏の専門家意見を採択しない理由を説明したが、最高裁判所は今年5月21日、原判決を破棄差し戻しするとの判断を下しました。その判決理由は驚くほど簡単かつ明快なものでした:「係争法律関係の行為地は、海外であるため、渉外民事法律適用法の規定により、準拠法を確定しなければならない」が、原審は、本案に対して台湾法が適用されることを説明していないため、破棄するものとする。

 これは知的財産裁判所が盲目的にETCの鑑定を採択することに対する最高裁判所の不満を示したものであるとみてよいでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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