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第179回 外国企業による刑事告訴の形式


ニュース 法律 作成日:2015年5月13日_記事番号:T00056927

産業時事の法律講座

第179回 外国企業による刑事告訴の形式

 外国企業が台湾で権利の侵害を受けた場合、多くが台湾で弁護士に委任し、刑事告訴を行う必要に迫られます。そしてその際には、いわゆる地検、または裁判所に対して「委任状」を提出する必要があるわけですが、これまでは、裁判所に対して提出する委任状には企業の「責任者」の署名があればよく、責任者が企業の董事長である必要はありませんでした。しかし先日、最高裁判所が下した判決によると、このような「告訴の形式」には、少し修正が必要なようです。

 台湾には当事者の委任を受けた弁護士が検察官の代わりに被告を起訴するという、いわゆる「自訴」制度もありますが、ほとんどの案件は、検察官が被告を起訴するという一般的なプロセスで処理されます。さて、その場合、「告訴人」または「告発人」「被害者」らは、審判の「当事者」とはなりません。そのため、弁護士に委任する方式が法に定めのある形式となっているかどうかはそれほど重要な問題とはなりません。

 しかし、「告訴乃論」の罪、すなわち「親告罪」の場合は、「被害者」の合法的な「告訴」がなければ案件そのものが成立せず、また検察も起訴を行うことができません。また、たとえ起訴したとしても、裁判所は案件を受理しません。そのため、親告罪の案件に限っては、弁護士への委任の形式がとても重要なものとなります。

映画の無料試聴リンクで起訴

 2009年に発生し、台北市の士林地方裁判所に対して起訴された著作権侵害案は以下のようなものでした。

 被告はインターネットサイト「雅虎奇摩(ヤフー奇摩)」上に「陶喜的互動式演芸庁」というブログを開設し、中国の「優酷網站」上の「バットマン」シリーズ第1作から第4作、および「ゴジラ」の無料試聴リンクを他者に対して提供していました。しかし、「バットマン」の著作権者である「ワーナー・ブラザース(以下「ワーナー」)」と、「ゴジラ」の著作権者である「トライスター・ピクチャース(以下「トライスター」)に発見され、告訴されました。検察は被告を「視聴著作物の公開転送」による著作物侵害で起訴しました。この「公開転送」という犯罪は前述の親告罪に当たる罪です。

 士林地方裁判所は審理の後、著作権法に規定のある「公開転送」とは、公衆に対して著作物の内容を提供する、または伝達すれば足り、実際にそれが転送・受信されたかどうかは問題とはならないと判断しました。つまり、転送・受信が実際に行うことができる状態になれば、犯罪成立となるとしたわけです。結果、被告は起訴事実を認め、また寄付などをしていたため、有罪とはなったものの、執行猶予が付き、案件は確定しました。

法定代理人を証明できるか

 しかしその後、2011年、被告は「告訴が合法に行われていなかった」ことを理由として、最高検察署検察総長に対して非常上告を申し立てました。検察総長は以下のような非常上告理由のもとに、本件告訴が合法なものではないため、原判決を取り消すよう求めました。

1. 本件告訴状に記載のある告訴人企業「法定代理人」が告訴人企業の「董事長」であるかどうかについての立証ができる証拠がない。

2. 告訴状には前述の企業の法定代理人の署名または企業印は無く、代理人の署名のみがなされている。

 最高裁判所は、2015年4月15日に、以下のような理由により、原判決を取り消す判決を下しました。

1. 本件告訴人は米国企業である。そのため、「中華民国アメリカ合衆国友好通商航海条約」(1946年11月4日)の規定により、米国の法人が台湾で代理人を立てて行った告訴については、委任者が当該米国企業を代表して告訴を行わせる旨の委任を行うことができるかどうかの判断は、米国の法律により判断されるべきものである。そしてそれは「董事長」でなければならないというわけではない。

2. 文書には製作者の署名が必要である。しかし、署名とは、筆記具によるものとは限らず、「木彫りのはんこ」や「職名印」なども署名と何らの異なりがあるものではない。

3. 告訴人であるワーナーが提出した委任状には、当該企業とその法定代理人の「印鑑」が捺印されており、また当該企業は在ロサンゼルス台北経済文化事務所による認証を受けた「印鑑証明書」を提出することで、①当該法定代理人は、確かに当該企業の知的財産権が台湾で侵害されたことについての関連訴訟を処理するために、当該企業により委任された②当該印鑑は本物である──という2点を証明しているため、この部分についての告訴は、法の規定に沿うものとなっている。

4. しかし、トライスターについては、前述のような証明文書を提出することで、法定代理人の資格を証明していない。さらに、被告は検察による調査中に「トライスターは告訴を提出する以前に企業買収に遭っているため、法人格はすでに存在していない」との抗弁を行っている。これらのことからも、この部分についての告訴が合法なものであったかどうか、士林地方裁判所は事実を明らかにした上で法に基づいた判決を下す必要がある。

委任の権限の有無が鍵

 今回の判決によれば、外国の企業が台湾の弁護士委任をして刑事告訴を行う際の「委任状」は、委任状そのものが認証を受けているかは重要なポイントではなく、当該外国企業が合法に設立された法人であり、また、企業を代表して委任状に署名した代表者に、弁護士に告訴を委任するだけの権限があったかどうかが大きなポイントとなっています。したがって、最近の一部の案件では、検察官と裁判官が告訴人に対して、これらの点について証明をすることができる文書の提供を求め始めています。

 読者の皆さんも、このような訴訟プロセス上における新しい変化には、常に注意を払うべきでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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